研究課題
RNA修飾はRNAが生体内において様々な機能を獲得するための戦略であり、転写後段階における新しい遺伝子発現制御システム「エピトランスクリプトーム」として、生命現象への関わりが注目されている。これまでの一連の研究により、研究代表者は、核膜孔を介したmRNA核外搬出の制御分子であるRAE1が、古典的mRNA核外搬出システムとメチル化シトシン(m5C)修飾mRNA核外搬出システムとを切り替えるコア分子として機能し、結果としてエピトランスクリプトームが加速されることにより、がん細胞の悪性化を誘導している可能性を見出した。そこで当課題では、転写後段階で調節されるエピトランスクリプトームとがん悪性進展機序の関連性の根本的理解に向けて、研究代表者が同定したRAE1が基盤となるm5C修飾mRNA核外搬出システムの分子基盤を解明することを目的としている。昨年度は、免疫沈降実験により、mRNAにm5C修飾を施す因子NSUN2(NOP2/Sun RNA methyltransferase)が、悪性度の高い子宮内膜がん細胞でRAE1とより多く結合することを確認した。これにより、RAE1はがんの悪性度が異なると、相互作用パートナーの切り替えを行っている可能性が示唆された。またNSUN2発現をsiRNAによってノックダウンすると、細胞増殖能が優位に低下した。さらに、同じくNSUN2のノックダウン細胞において、m5C化学修飾を受けたmRNAの修飾率が著しく低下することを確認したが、今年度は悪性度の高い子宮体がん細胞においてRAE1をノックダウンした際にもmRNAのm5C化学修飾が低下することを見出した。
3: やや遅れている
研究代表者の異動により、研究を行う環境整備を行っていたため、当研究課題の進捗にやや後れが生じたと判断した。
m5C mRNA核外搬出システムへ切り替える分子スイッチの解明を引き続き行う。悪性度の低い子宮内膜がん細胞株では、RAE1は古典的mRNA核外搬出因子と複合体を形成するが、悪性度の高い細胞株において、RAE1は5mC修飾因子であるNSUN2と複合体を形成する。そのスイッチ機序を理解するため、RAE1-NSUN2複合体形成に関わるRAE1翻訳後修飾について明らかにする。
異動した先の研究を行う環境基盤を整えていたため、必要な実験を進めることができず、消耗品を購入することがなかったため次年度使用額が生じた。次年度は今年度分も含めて早めに計画を進め研究費を適切に使用する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
Macromolecular Bioscience
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