研究実績の概要 |
肺癌の術後再発率は70-80%と高く,その多くは遠隔転移による.転移が臨床的に顕在化するまでの期間,癌細胞は増殖を休止した“休眠状態”(dormancy)あるいは“潜伏状態”(latency)にあり,その根絶を困難にしている.腫瘍本体から遊離した低接着性の癌細胞は,転移に至る過程で,接着状態とは異なる代謝経路やシグナル伝達経路を活性化することにより,低接着環境下のストレスに適応していると考えられる.本研究では、その分子機構を低接着培養を用いた系にて解析したいと考えている.
まず肺腺癌の主たるドライバー変異から構成される肺腺癌細胞6株 (A549, H441, H2009, HCC4006, LC-2/ad, H2228)を低接着培養系で培養した.(A)通常の接着培養、(B)低接着の初期(低接着培養開始後1日),(C)安定期(低接着培養開始後7日)の時点でサンプルを調整し、メタボローム解析、遺伝子発現解析を行った.現在、そのデータを解析中である.
次に、RNAi, 薬理学的阻害剤による解析と検証を行うため、代謝阻害,シグナル伝達の阻害,あるいはRNAi (shRNA, siRNA)による遺伝子発現の抑制を行い,細胞の生存・増殖に与える効果を検証する実験系を立ち上げた.いままでの検討結果にて、概して低接着培養下では薬剤感受性が低下する傾向を認めている.なかでも低接着条件でも細胞増殖抑制を示す薬剤をいくつか同定している.今後、メタボローム解析、遺伝子発現解析のデータとあわせて候補分子の絞り込みを行う予定である.
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