研究課題/領域番号 |
22K06947
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
新井 恵吏 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (40446547)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | micropapillary / lung adenocarcinoma / DNA methylation / anoikis |
研究実績の概要 |
慶應義塾大学病院で肺摘除術を受けた微小乳頭状成分をもつ肺腺がん症例48例の病理診断後のホルマリン固定パラフィン包埋標本から、微小乳頭状成分(T2)とその背景の通常型腺癌成分(T1)を組織マイクロダイセクション法を用いて相互の混入を避けて分取し、ゲノムDNAを抽出した。2022年度にはうち11例22検体のゲノム網羅的DNAメチル化プロファイルを高密度ビーズアレイ (Infinium MethylationEPIC Kit) によって取得した。 全例全プローブのDNAメチル化率を用いた教師なし階層的クラスター分析と主成分分析では、一部の症例を除き、同症例のT1とT2が近い位置にクラスタされた。通常型腺癌が微小乳頭状性格を獲得する際に生じるDNAメチル化の変化は、個体間の多様性に比して小さいと考えられた。 プローブごとのDNAメチル化率についてT1とT2のWelchの対応なしT検定を行ったが、多重検定における補正を行った上で有意なプローブを確保することができなかった。そこでT1からT2へのDNAメチル化変化が高頻度に観察されるプローブに着目した。プロモーター領域と推定されるプローブにおいて、T2でT1に比してDNAメチル化率が10%以上の亢進を示す症例が6症例以上 (解析症例の半数以上)であったプローブは247プローブであった。このうち、複数プローブに紐づき、多数例で同一方向のDNAメチル化異常が集積する遺伝子として、遺伝子Aを見出した。遺伝子Aは肺がんで発現しているが、低発現群では高発現群に比して予後不良と報告されており、微小乳頭状肺癌の悪性度の高さを説明できる可能性がある。 247プローブが所属する遺伝子について、WebGestaltを用いてエンリッチメント解析を行ったところ、発がんに関わるとしてよく知られた分子経路Aと分子経路Bが挙げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定症例全てのDNAの抽出を行ったが、担当者(研究組織外)の産休・育休のためマイクロアレイデータ取得が中断した。また予想された結果であるが、同一症例由来の通常型腺癌が微小乳頭状性格を獲得する際に生じるDNAメチル化の変化は個体間の差に比して小さいことが確認され、目的の変化を抽出するには多数データを用いた群間比較以外の手段を用いる必要があった。その条件においてデータ解析方法を検討し、微小乳頭状肺がん形成に関与する候補として遺伝子Aと分子経路A・Bを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に入り担当者が復職したためマイクロアレイデータ解析を進めている。対象例全てのデータを用いて、現在候補としている遺伝子A、分子経路A・Bの関与の可能性を検証すると共に、さらに候補遺伝子・分子経路を見出すために統計学的解析を行う。微小乳頭状肺癌の発生に関与する候補分子のうち、T1とT2で発現が異なると予想される分子は、免疫組織化学等で発現の違いを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初2022年度に行うとしていたマイクロアレイ解析より候補分子の組織化学的検索を優先したため消耗品額に計画との差異が生じた。繰越した研究費は2023年度に行う実験のための消耗品購入に充てる。
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