研究実績の概要 |
この研究課題では,老化細胞制御による新しい原発性胆汁性胆管炎(PBC)治療法の開発基盤となる基礎的研究を行う。また, 現在明らかでない, 胆管細胞老化におけるcGAS (cyclic GMP-AMP synthase)-STING (stimulator of interferon genes)自然免疫シグナル経路の関与, 老化細胞の表現型バリエーションとPBCの胆管病変, 病型やウルソデオキシコール酸(UDCA)治療反応性などとの関連を検討する。 2022年度は, 以下の検討①-③を行った。①PBC肝組織における細胞老化の特徴と臨床病理学的項目との関連について, 対照疾患肝との比較検討を進めた。その結果, cGAS-STING経路に関連する因子であるHippo-YAP経路が, cGAS-STING経路の抑制により細胞老化, SASP産生を抑制することを明らかにした(国際学会[AASLD]にて口演発表, 英文論文発表)。②cGAS-STING経路活性化について, 微小核,細胞質内dsRNA蓄積,γH2AX, ATM発現, cGAS, STING発現, cGAS-STING経路活性化指標(IFN-β, Ifit3)の発現などの検討を進めた。PBCの胆管病変におけるSTING発現亢進など, いくつかの新しい結果を得ることができた。成果を学会発表準備中である。③組織透明化技術とライトシート顕微鏡を利用して, ヒト肝組織の胆管や血管ネットワーク構築と胆管細胞老化の空間的相互関連の検討を開始した。PBC症例を含む30症例の肝組織収集, 組織透明化の条件検討, 免疫蛍光染色の条件検討, ライトシート顕微鏡による画像取得の条件検討などを行った。その結果, 良好な胆管ネットワークの3D画像の取得が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は, PBC肝組織における細胞老化の特徴と臨床病理学的項目との関連の検討を進めた。成果の一部としてHippo-YAP経路が, cGAS-STING経路の制御を介して細胞老化を抑制することを明らかにして, 国際学会(AASLD)で口演発表, 論文発表することができた。また, cGAS-STING経路活性化について, 微小核,細胞質内dsRNA蓄積,γH2AX, ATM発現, cGAS, STING発現, cGAS-STING経路活性化指標(IFN-β, Ifit3)の発現などの検討を進めた。PBCの胆管病変において, STING発現が亢進するなど, いくつかの新しい結果を得ることができ, 一部の成果を発表準備中である。さらに, ヒト肝組織の組織透明化とライトシート顕微鏡を利用して, 胆管細胞老化と胆管ネットワーク形態の関連, 血管老化や線維化との空間的相互関連の検討を開始した。PBC症例を含む肝組織を30症例収集して, 組織透明化の条件検討, 免疫蛍光染色の条件検討, ライトシート顕微鏡による画像取得の条件検討などを行った。現時点では, 各種条件検討に試行錯誤中であるが, 胆管ネットワークについて、概ね良好な3D構築画像が取得できる様になった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は, ①PBC肝組織における細胞老化の特徴(表現型バリエーションやcGAS-STING経路の関与)とその意義についての検討, 組織透明化とライトシート顕微鏡を利用した細胞老化と胆管, 血管の立体構築についての検討をさらに進める。さらに, ②当教室で株化したヒト, ラット, マウス培養胆管細胞, miR-506導入胆管細胞, 血管内皮細胞, 間質細胞などの培養細胞を用いて, 老化細胞の特徴(表現型バリエーションやcGAS-STING経路の関与)の検討を行う。また, 老化細胞除去薬やcGAS-STING経路制御による老化細胞制御やSASP抑制効果の検討も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は, 最終的に約220000円の残高がでた。 海外発注を要する購入予定試薬(蛍光標識抗体, 細胞培養関連試薬など)の選定が年度末締切ギリギリになった為、入荷予定も考慮して、次年度に発注することにした。次年度の予算に繰り越し, 試薬(蛍光標識抗体, 細胞培養関連試薬など)の購入に充てる予定である。
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