研究課題/領域番号 |
22K06968
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
林 玲匡 杏林大学, 医学部, 准教授 (40735396)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 膵癌 / 腫瘍内不均一性 / 空間的遺伝子発現解析 |
研究実績の概要 |
診断、治療技術の発展した今日においても膵癌は悪性腫瘍全体の中で有意に予後不良である。本研究は、この難治性癌の代表である膵癌に対して、近年注目されている空間的遺伝子発現解析を用いて局所の進展過程の背景にある分子遺伝学的変化を解明しようというものである。特に病理診断技術を活かし、形態学的に変化のある空間を解析対象としている。本研究は、理化学研究所がんゲノム研究チーム(中川研究室)と共同で行っており、緊密な連携のもと解析を進めている。 本年度は、昨年度FFPE対応のVisiumプラットフォーム(10X Genomics社)を用いて行った空間的遺伝子発現解析の発現データをもとに、膵癌の退形成変化に注目した解析を行った。管状腺癌、退形成癌の双方を含む局所空間では、形態像と概ね一致する遺伝子発現のパターンが得られた。擬時間を用いた軌道推定解析では、退形成変化における脱分化の過程が推定され、発現変動遺伝子を用いた転写因子予測からは転写因子Xが退形成変化の鍵となる遺伝子として推定された。免疫組織化学染色でも管状腺癌と退形成癌で転写因子Xのタンパク発現が異なることが確認された。現在はエピゲノムの変化などに注目しながら、転写因子Xの発現制御メカニズムの解明を行っている。なお、病理診断学的に形態学的変化の目立たない領域でも遺伝子発現パターンの変化が見られる部分もあったが、形態学的変化のある領域の方が変化はよりダイナミックであり、多数の発現変動遺伝子が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画当初は4年間の計画であったが、「局所空間における形態変化、形質転換に重要な遺伝子群を同定し、その臨床病理学的背景を探求する」という当初の目標事項に関して、主要な解析は完了した。現在は論文投稿へ向け、形質転換に重要な遺伝子の発現制御を検討しているが、本年度中にはデータ整理を完了し論文投稿が可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要に記載のごとく、膵癌退形成変化の鍵となる転写因子Xが同定され、今後は転写因子Xの発現制御メカニズムについて、エピゲノムの変化などに注目しながら解析を進める。本研究の当初の目標は概ね達成していると考えれ、科学誌への投稿に向けた英語論文の準備も進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今後細胞株を用いた実験なども予定しており、同実験のために助成金を使用する予定である。
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