研究課題/領域番号 |
22K06978
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
狛 雄一朗 神戸大学, 医学研究科, 准教授 (40714647)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 食道癌 / 癌微小環境 / 線維芽細胞 / マクロファージ / 癌間質相互作用 |
研究実績の概要 |
食道扁平上皮癌(ESCC)細胞・マクロファージ・線維芽細胞の間の「直接接触による細胞間相互作用」を媒介する分子の役割を各種培養細胞や病理組織標本を用いて解析した。 研究①:ESCC細胞と線維芽細胞との直接共培養系を確立した。具体的には、ESCC細胞株としてTE-9・TE-10・TE-15、線維芽細胞としてヒト骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)を用いた。ESCC細胞株とMSCを混合して直接共培養し、4日後に細胞を剥がし、癌細胞特異抗原EpCAMに対する抗体で標識された磁気粒子による自動磁気細胞分離装置を用いた細胞分離によって、EpCAM陽性細胞(すなわちESCC細胞株)とEpCAM陰性細胞(すなわちMSC)に分画した。比較対照として単独培養したESCC細胞株あるいはMSCを用いた。直接共培養後のMSCはCAFマーカーのFAPを高発現し、CAF様細胞と定義した。直接共培養後のESCC細胞株は単独培養後のESCC細胞株と比べて増殖能や運動能が亢進し、各種シグナル伝達分子が活性化した。「単独培養後のESCC細胞株」と「直接共培養後のESCC細胞株」、あるいは「単独培養後のMSC」と「直接共培養後のMSC(CAF様細胞)」との間でcDNAマイクロアレイ解析を施行した。 研究②:既に確立していたESCC細胞株とマクロファージとの直接共培養系を解析した。マクロファージと直接共培養後のESCC細胞株においてInterleukin 7 receptor (IL7R)が発現亢進した。IL7を添加したESCC細胞株はIL7Rを介して運動能や浸潤能が亢進した。IL7Rを高発現させたESCC細胞株では増殖能が亢進した。IL7Rを高発現するESCC症例は予後不良な傾向を示した。以上からマクロファージとの相互作用によって癌細胞において発現亢進するIL7RはESCCの進展に寄与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究①で実施した「単独培養後のESCC細胞株」と「直接共培養後のESCC細胞株」、あるいは「単独培養後のMSC」と「直接共培養後のMSC(CAF様細胞)」との間のcDNAマイクロアレイ解析では、直接共培養によって種々の遺伝子が癌細胞あるいはMSCにおいて高発現することを見出した。現在、そのうち数種類の遺伝子の解析を進め、直接共培養によって亢進する癌細胞の悪性形質との関連を明らかにしつつある。未発表データのため具体的な遺伝子名は割愛する。 研究②ではマクロファージとの直接共培養によって癌細胞において発現亢進するIL7Rの機能解析を実施した。ESCCにおけるIL7Rの意義を明らかにし、国際誌の論文として発表できた。さらに別の分子を2種類解析し、そのうちの一つについては現在国際誌へ投稿中である。 いずれの研究内容においても国内の学会において複数の学会発表を実施し、後者のIL7Rの研究発表(大学院生担当)については第33回日本消化器癌発生学会総会においてポスター部門優秀演題賞を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
研究①で実施したcDNAマイクロアレイの結果から複数の分子に注目しているが、引き続きこれらの分子がESCCの進展に関与するかどうかをESCC細胞株やESCC組織を用いて解析する。さらには線維芽細胞とマクロファージとの間の相互作用を媒介する可能性のある分子についても見出すことができれば、ESCC細胞・マクロファージ・線維芽細胞の3者の間の相互作用をさらに解明することができると期待される。現在解析中の分子の一つは直接共培養後の線維芽細胞において発現・分泌が亢進し、癌細胞の表現型への影響だけでなくマクロファージにも作用することを明らかにしつつある。 研究②ではマクロファージとの直接共培養によって発現亢進する分子を引き続き解析する。国際誌へ投稿中の論文で研究対象としている分子以外にもう一つESCC細胞株において発現亢進する分子に着目しており、これについてもESCCの進展における役割の解析を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
642円の未使用額があり、次年度に消耗品等を購入する際に合算して使用する予定である。
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