研究課題/領域番号 |
22K06982
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
松田 勝也 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 准教授 (20380967)
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研究分担者 |
吉浦 孝一郎 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (00304931)
中島 正洋 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (50284683)
光武 範吏 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (50404215)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 甲状腺腫瘍 / 細胞診 / ゲノム不安定性 / DNA損傷応答 / p53 binding protein-1 / がん遺伝子パネル |
研究実績の概要 |
【目的】本研究では、術前の穿刺吸引細胞診(液状化細胞診)検体における53BP1発現型と甲状腺濾胞性腫瘍の組織型との関連性を明らかにする。さらに各症例毎の遺伝子変異の特徴と53BP1発現パターンとの関係を解明する。特にDNA損傷応答関連分子の遺伝子異常との関係を明らかにすることで、53BP1発現異常の誘導機序を考察する。 【方法】臨床的に濾胞性腫瘍が疑われ採取された穿刺吸引細胞診検体(細胞診実施後の残余検体)を収集し、盲検的前向き解析を行う。53BP1発現型解析:細胞診用固定液に保存された検体を用いて、53BP1とKi-67による蛍光二重免疫細胞化学を実施し、画像解析ソフトにより定量的に解析する。53BP1発現型と術後病理診断結果とを突合し、分類された各パターンに最適な重み付け(係数)を決定するため、ロジスティック回帰モデルを用い、最適な診断予測モデルを構築し、診断精度を算出する。 遺伝子解析:核酸保存液に保存された検体を用いる。核酸抽出キットを用いてDNAとRNAを抽出し品質確認後、キャプチャーシークエンス法による遺伝子変異解析を行う。遺伝子解析には、甲状腺癌の診断に有用とされるドライバー遺伝子のうち特に検出率の高い20種の遺伝子に加えて、発がんへの関与が知られているDNA損傷応答関連遺伝子を含むオーダーメイドのがん遺伝子パネルを用いる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに甲状腺濾胞性腫瘍が疑われ手術が施行された65症例の穿刺吸引細胞診検体を収集した。53BP1/Ki-67蛍光二重免疫細胞化学による解析の結果、濾胞癌の判別精度は特異度93%、感度40%であった。本解析症例の中には濾胞癌がわずかしか含まれてないことが判明し、現在、濾胞癌を中心に症例の追加を進めている。 53BP1発現型と遺伝子異常の特徴との関連性を解明するために、甲状腺腫瘍関連20遺伝子とDNA損傷応答修復関連9遺伝子を含む甲状腺がん遺伝子パネルを作成した。がん遺伝子パネルに供するために、細胞診試料からDNAとRNAを抽出しQubitとTapestationでの品質確認により解析可能な核酸が抽出できることを確認した。 2023年度は、本パネルを用いて結節内結節型良性濾胞性結節(nodule in nodule:NN)における遺伝子異常を解析した。その結果、現在良性と診断されているNNは濾胞癌と同程度の遺伝子異常を有していることが明らかとなった。この研究結果は、腺腫性甲状腺結節や濾胞腺腫を含む良性結節は遺伝学的に heterogeneous な集団で、濾胞癌と同等の潜在的悪性形質を有する結節が含まれていることを示唆している。さらに比較対照として解析した通常型の腺腫様結節と濾胞腺腫に複数の遺伝子変異を有す症例が検出された。この2例の53BP1異常型の発現率はそれぞれ16.7%、12.5%で、腺腫様結節と濾胞腺腫の平均発現率(それぞれ0.8%および0.5%)より高く、遺伝子異常の程度と53BP1異常型発現亢進との関連性が示唆された。 本解析によって遺伝子パネルの改良点が明らかとなり、新たに改良版甲状腺がん遺伝子パネルを作成した。現在、細胞診試料65例から抽出した核酸を用いた遺伝子パネル解析の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
濾胞癌症例の細胞診試料を収集すると共に、新たに作成した甲状腺がん遺伝子パネル解析に着手し、BP1発現型と遺伝子異常の特徴との関係性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を実施していく中において、濾胞癌の症例数が少なく研究試料の収集が予定より遅れたため次年度使用額が生じた。2024年度は研究試料を追加して遺伝子パネルによる解析を進める計画としている。
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