研究課題/領域番号 |
22K06992
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
山下 享子 公益財団法人がん研究会, 有明病院 病理部, 副医長 (50754975)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 脂肪性腫瘍 |
研究実績の概要 |
骨軟部腫瘍のWHO分類第5版では、脂肪性腫瘍に「Atypical spindle cell / pleomorphic lipomatous tumor (ASCPLT)」の項目が追加された。この腫瘍は良性に分類されているが、幅広い臨床像・組織像を示す病変が含まれる。遺伝子異常の点でも、RB1欠失が一定数認められる以外に特徴的な変化は知られておらず、実際のところ、脂肪細胞分化を示す複数の腫瘍の総称ではないかとの意見もある。ASCPLTには複数回局所再発を繰り返す症例もあり、中間群以上の悪性度を示す一群が存在しないか検討することは、治療方針決定においても重要である。 一方で、「atypical spindle cell lipomatous tumor」の原型と言える「spindle cell liposarcoma」では、TERTの融合遺伝子が別々に2例報告され(TRIO-TERT, CTNND2-TERT)、うち1例ではTERT(テロメラーゼ逆転写酵素)の発現上昇も確認されている。TERT発現上昇によるテロメラーゼ活性化を介したテロメア維持機構は、様々な癌腫のほか、粘液型脂肪肉腫で高頻度に見られるものの、脱分化型脂肪肉腫や多形性脂肪肉腫を含む大多数の軟部腫瘍では、非常に稀だとされている。 申請者はこれまで、脱分化型脂肪肉腫における予後予測因子の検討や、粘液型脂肪肉腫におけるテロメア維持機構の意義についての検討など、主に脂肪性腫瘍について研究を行ってきた。今回は、ASPLTに分類されうる症例を抽出し、全エクソームシーケンスやRNAシーケンスにて遺伝子増幅や欠失、融合遺伝子の有無などを網羅的に解析するほか、テロメア維持機構についても調査し、臨床像や組織像と合わせて分類について再検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2005年以降にがん研有明病院で登録されている腫瘍の中で、spindle cell lipoma, pleomorphic lipoma, pleomorphic liposarcomaと診断されている症例を見直し、2018年以降の症例と合わせて25例をatypical spindle cell/pleomorphic lipomatous tumorの候補として抽出した。これらの症例のうち、凍結材料から10症例、凍結材料が保存されていない症例についてはホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)切片から9症例について、DNA, RNAの抽出を行い、全エクソームシーケンス(WES)とRNAシーケンス(RNA-seq)に提出した。WESでは凍結材料から8症例、FFPEから1症例、RNA-seqでは凍結材料から9症例、FFPEから9症例で、解析可能なデータが得られた。またコントロールとして、pleomorphic liposarcomaを4例、spindle cell lipomaを6例についても、WESとRNA-seqを行った。また組織アレイを作製し、RB1およびMDM2のFISHを施行した。
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今後の研究の推進方策 |
全エクソームシーケンス(WES)のデータから、染色体異常の複雑性評価やRB1遺伝子の片側アレル欠損の有無、体細胞遺伝子変異などを調査し、またRNAシーケンス(RNA-seq)のデータから、融合遺伝子解析や遺伝子発現解析を行う。またtelomere specific FISHなどを利用しテロメア維持機構についても解析する。それらの結果を踏まえて、ASPLTの臨床病理学的・分子病理学的特徴を多方面から解明し、その結果複数の疾患群を含むようであれば、過去の報告も参考にしてサブグループ分類を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に予定していた次世代シーケンスやFISH解析、テロメア維持機構解析を一部次年度に施行する予定となったため、その分の予算を次年度に使用する予定である。
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