研究課題/領域番号 |
22K06993
|
研究機関 | 地方独立行政法人埼玉県立病院機構埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所) |
研究代表者 |
井下 尚子 地方独立行政法人埼玉県立病院機構埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所), 臨床腫瘍研究所, 客員研究員 (20300741)
|
研究分担者 |
須賀 英隆 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (20569818)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 下垂体 / 視床下部 / 門脈 / 下垂体茎 / 形態学 / 免疫組織化学 |
研究実績の概要 |
埼玉県立がんセンターの解剖症例を用いて、現在、下垂体の、特に後葉、下垂体茎、視床下部のホルモン分泌細胞の分布や形態などを詳細に検討している。前年度は下垂体茎部を中心とする連続切片の作成により、下垂体を取り巻く細血管の走行などに注目し門脈との関連を検討してきた。門脈の発見は我が国の大きな成果でもあり、少し研究方向をこちらにシフトして、2023年度は検討を加えてきた。 下垂体門脈は視床下部ホルモンであるCRH、TRH、GnRH、GRH(それぞれの下垂体前葉ホルモンACTH、TSH、ゴナドトロピン、GH放出ホルモン)を、ホルモン産生細胞から門脈という血流にのせて高濃度で下垂体前葉に届けることを可能とする非常に短い静脈で、毛細血管→静脈(門脈)→毛細血管という特殊な血流を示す。最近の教科書では門脈起始部に相当する静脈網は、視床下部、正中隆起付近に存在するように書かれていることが多いが、肉眼的には漏斗部が十分に細くなった下垂体茎まで上記下垂体ホルモン刺激ホルモンを届けていること、一部は下垂体茎が下垂体本体に付着する部分まで運ばれて、放出されていることが、ホルモンに対する免疫染色IHCを用いて証明することができた。門脈は「この静脈」と同定できるようなものではなく、血管網と考えられた。下垂体茎内を通るこれらホルモン産生細胞の線維の分布も、前方、後方に分かれていた。これらは学会等で発表した。 また視床下部ホルモンを解剖例で多数染色するための条件設定などを行った結果として、オキシトシン産生神経細胞腫を発見することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
下垂体門脈の構造が、教科書に書かれている内容とやや異なっており、また下垂体門脈発見時の論文は古く、Mouseを用いた検討が主であり、ヒトとの対比を含め、その確認に時間を要した。下垂体茎を中心とした構造の確認には、下垂体茎の横断面の標本作成などが必要であり、保管病理標本を用いたものでは利用できないため、新たな症例で標本を作成する必要があった。 また本研究のターゲットの一つである圧センサーとしての機能が期待されるASK3については、IHCが今のところ安定しておらず検討を重ねている。
|
今後の研究の推進方策 |
第1に、下垂体門脈の構造、各ホルモン産生細胞の線維がどのように下垂体門脈周囲に存在するかなどを詳細に、臨床上の問題点、脳外科での損傷リスク、個人差の有無などについても言及しながら報告する。特に門脈起始部がほぼ下垂体茎内であることを周知できるものとしたい。 第2に、免疫組織化学IHCによりオキシトシン陽性となった症例を含めた傍鞍部の神経細胞腫の特徴について報告する。数例のバソプレシン陽性神経細胞腫を含め7例の自験例がある。バソプレシン陽性症例ではSIADHを示している症例があり、これら機能性、非機能性の臨床診断基準についても考察したいと考えている。 第3に、死因と後葉機能の関係について、特に死線期の尿閉の有無、血圧低下の状態、急性であったのか慢性的な変動であったのかを含めて、検討する。解剖例の下垂体後葉の多くは空胞上に変性していることから、手術材料に見られる少量の非腫瘍性後葉組織との比較が必須であると考えられる。下垂体(後葉)細胞は、グリア系細胞であることから、手術例の後葉では腫瘍周囲のグリア細胞の反応性増生を見ている可能性が否定できないが、バソプレシンやオキシトシンに対するIHCを併用して、所見の差異を検出する。また接触コントロールの立場から視床下部ホルモン産生細胞は注目されつつあり、これらにも対応可能な標本の収集を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
標本の作製は、ヒト病理解剖例あるいはヒト手術摘出病理検体を用いたため、途中までの作成過程では業務で用いる試薬を使用することができた。
|