研究課題
コレラ毒素(Cholera toxin: CT)は、下痢などの毒性がある一方で、免疫増強作用を有することが知られている。細胞株を用いた研究により、CTによる毒性の分子機序については理解が進んでいるが、免疫増強活性の作用機序については不明な部分が多く、特に生体内におけるCTの作用は不明な部分が多い。我々は、これまでCTのBサブユニット(CTB)がマウスの腹腔に常在するマクロファージ(以後、腹腔マクロファージ)に作用し、リポ多糖と協調して炎症性サイトカインIL-1βの産生を誘導すること、この誘導に細胞膜上糖脂質ガングリオシドGM1(以後、GM1)が必須であることを明らかにしてきた(Int Immunol. 2019)。この分子機序を解析する過程で、この誘導に小胞体-ゴルジ体間輸送関連分子が関与することを見出した。本研究ではこの新規IL-1β産生誘導機構の分子機序と、CTによる免疫アジュバント活性における小胞体-ゴルジ体間輸送関連分子の機能的意義を解明する。令和4年度では、まず、小胞体関連分子の関与を検討した。各種阻害剤や遺伝子改変マウスを用いた検討により、腹腔マクロファージにおいてCTがGM1との結合を介して細胞内に侵入し、小胞体に蓄積されること、この時小胞体ストレスセンサーIRE1αが活性化されることを見出した。また、IRE1αの活性化がCTによるIL-1β産生誘導に関与することも明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、CTによるIL-1β産生誘導や免疫アジュバント活性における小胞体-ゴルジ体間輸送関連分子の機能的意義を解明することである。令和4年度では、遺伝子改変マウスを用いて、CTによるIL-1β産生誘導における小胞体関連分子の関与の解明を目指していた。当初の計画通り、遺伝子改変マウスを用いて小胞体ストレスセンサーIRE1αがCTによるIL-1β産生誘導に関与することを明らかにすることができた。以上の観点から、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
令和5年度では、小胞体の上流の細胞内輸送関連分子の関与を検討する。CTはGM1を介して細胞内侵入後、ゴルジ体を経由して小胞体に到達することが知られている。そこで、ゴルジ体-小胞体間輸送経路(逆行輸送経路)に関与する機能分子に焦点を当て、阻害剤や遺伝子欠損マウスを用いて候補機能分子がCTの細胞内輸送にどのように関与しているか、CTによるIL-1β産生誘導に関与するかどうかなどを検討する。さらに、CT以外の微生物由来毒素についても同様に検討し、小胞体-ゴルジ体間輸送関連分子の新規機能的意義を明らかにする。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Front Immunol.
巻: 13 ページ: 857954
10.3389/fimmu.2022.857954. eCollection 2022.
Methods Mol Biol.
巻: 2427 ページ: 95-104
10.1007/978-1-0716-1971-1_9.