研究課題
1)膵癌幹細胞マーカーの検討:マウスにおける膵癌モデルであるKPCマウスにおいてはDoublecortin-like kinase 1(Dclk1)が幹細胞マーカーとして特異性が高いと報告されるが、ヒト膵癌でDclk1免疫染色を行ったところ、発現様式と陽性細胞の割合には検体ごとに大きな差が見られた。癌幹細胞マーカーはマウスとヒトでの差異が大きいと考えられたため、当初の計画ではDclk1を利用した計画を立てていたが、利用する癌幹細胞マーカーについて再検討する事とした。2)実験系の検討:本研究計画ではKPCマウスの使用を予定したが、上記の結果を考慮し、ヒト膵癌の細胞株・組織・オルガノイドを利用した実験系を優先する事とした。受精鶏卵を用いた培養系を試したところ、実体顕微鏡を用いた観察では分解能が低いために、個細胞レベルでのライブイメージングは困難であることが分かった。代替手法として、膵臓の器官培養および膵癌培養に適するとの報告があった豚膀胱の間質組織を基質に用いて、各種の膵癌細胞株の3D培養を試みた。2週間の培養後に組織を調べると、癌細胞は重なりあって増殖し、腺管構造や間質浸潤も見られるなど、生体での癌病変を模倣した組織像を呈し、蛍光顕微鏡による経時的観察が可能であったことから、今後の研究に利用することとした。3)ミトコンドリア機能が及ぼす影響の検討:癌幹細胞の低酸素環境への適合性から、酸素を消費するミトコンドリアとの関連に着目し、ミトコンドリア活性化作用を有する ”mitochonic acid 5” を培養液に添加してsphere assay を行なった。通常酸素濃度下においてsphereの数には変化がなかったものの、sphereのサイズ縮小や腺腔形成が誘導されたことから、ミトコンドリア機能が癌の分化に影響を与える可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ヒト膵癌幹細胞のマーカーについては複数の遺伝子が報告されているが、多くはFACSを用いて検定されたものである。豚膀胱間質を用いた3D培養の組織で既知の癌幹細胞マーカーの免疫染色をスクリーニング的に調べたところ、陽性細胞が少数であったり多数であったりと、大きく結果がバラついたことから、幹細胞マーカーの利用と評価に慎重を要することが分かり、当初の計画を修正しながら研究を進めることとなった。実験系として豚膀胱間質による3D培養法を確立できたことから、各種の膵癌細胞株を用いた研究を迅速に進めることとなった。この3D培養法を利用することで、受精鶏卵では制約のあった長期間の培養実験が可能となったことから、当初には予定しなかった解析についても準備中である。ヒト膵癌組織には癌細胞の周囲に豊富な線維化が見られる一方、血管に乏しいことが特徴であり、他の癌種に比べて低酸素環境下にあると想定されている。ミトコンドリア活性化作用を有する ”mitochonic acid 5” が癌の幹細胞・分化に影響を与える可能性を示唆するデータは興味深いものと考えており、この切り口からの解析についても展開して行きたいと考えている。
組織での癌幹細胞性の評価には、レポーター遺伝子を用いた細胞ラベリングによるcell fate analysis が有用であると考えており、トランスジーンを作成して癌細胞株に組み込む実験を行う。また、ジフテリア毒素を用いて癌幹細胞を除去する手法での癌幹細胞性の解析も必要と考えており、ヒト癌細胞には高感受性のジフテリア毒素受容体が発現していることから、まずはゲノム編集によって受容体遺伝子のノックアウトを行った上で、癌幹細胞マーカー発現細胞に特異的にジフテリア毒素受容体を再発現させることを予定している。遺伝子の特異的発現のためには、プロモーター領域を利用したトランスジーンの構築もしくはゲノム編集の手法を用いた遺伝子座へのノックインを行うことを考えている。また、Girdin遺伝子が及ぼす影響についても同様の手技にて進める計画である。ミトコンドリア機能との関連については、活性化作用のあるmitochonic acid 5、ミトコンドリア活性阻害剤、低酸素培養などを複合的に組み合わせて実験を進める。解析にはsphere assay だけでなく豚膀胱間質による3D培養法を利用する。
当初に予定していたマウスを用いた実験については、研究手法の見直しに伴って規模を縮小したことから、予算を来年度以降に振り分けることとなった。今後、ヒト膵癌オルガノイドを用いた実験を計画しており、繰り越した経費を使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件)
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