研究課題/領域番号 |
22K07023
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
伊藤 圭祐 神戸大学, 医学研究科, 助教 (10575468)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | シュワン前駆細胞 / 神経芽腫 / Phox2b / シングルセルRNAシーケンス / 交感神経系 |
研究実績の概要 |
シュワン前駆細胞(Schwann cell precursor: SCP)は、全身の神経軸索を取り巻いてミエリン形成に寄与するシュワン細胞に分化するだけでなく、色素細胞や結合組織、神経細胞など様々な細胞種に分化する事が知られている。また従来、副腎交感神経系細胞に分化する神経堤細胞に由来すると考えられていた小児悪性腫瘍・神経芽腫は、SCPにも由来する証拠が複数報告されている。しかしSCPからの分化転換、特に神経細胞への切り替えを行うメカニズムについては明らかになっていない。我々は以前、前肢内のSCPが神経細胞に分化する事を発見し、遺伝子Xの半減や神経芽腫ドライバー変異によりこの神経細胞が異常産生される事を発見した。このため神経細胞の異常産生と神経芽腫発症は、分子機構を共有するのではないかと考えた。 本年度は遺伝子Xのヘテロマウス前肢からSCPを単離し、これを用いてシングルセルRNAシーケンスを行うことに成功した。その結果、野生型マウスとヘテロマウスとの間で、SCP内における遺伝子発現に大きな変化はなかった。一方で神経細胞のクラスターが野生型に比べてヘテロマウスでは顕著であり、SCPから分岐していることが確認できた。この結果は我々が以前観察した、前肢にSCP由来の神経細胞が存在し、それはXヘテロマウスで異常産生されるという組織学的結果を支持するものである。現在Xヘテロマウスで発現量が変化する遺伝子を探索しており、今後その機能を生体内で検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画では神経芽腫ドライバー変異(Th-MycN)を掛け合わせた、遺伝子Xのヘテロマウスを用いてシングルセルRNAシーケンスを行う事を主目標としているが、今回その前段階として、XヘテロマウスのみのシングルセルRNAシーケンスに成功し、Xヘテロマウスで神経細胞が確かに増加しており、それがSCPに由来することを支持するデータを得ている。現在このデータを解析し、SCP由来神経新生を制御する遺伝子群の探索を行っている。 一方でTh-MycNを持ったXヘテロマウスは4重変異体になるため(X; Th-MycN; PlpCreERT; Rosa-tdTomato)、現時点ではまだ十分な数のマウスを確保できていない。現在これらマウスの交配を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
XヘテロマウスのシングルセルRNAシーケンスの解析結果から、ニューロンのクラスター内において、SCPクラスターから派生し、分岐した領域が存在する事が明らかになった。我々はこの領域で、野生型マウスとヘテロマウスとの間で発現量に差異を見せる遺伝子が、SCP由来神経新生の制御に重要な役割を果たすのではないかと考え、現在それら遺伝子の探索を行っている。今後これら候補遺伝子を生体内でノックアウトし、前肢における神経細胞の数に変化が起きるかどうかを解析する。また得られた候補遺伝子をTh-MycNマウスでもノックアウトし、神経細胞の異常産生に影響が出るかどうかを検証する。さらにこれら遺伝子の発現を神経芽腫組織で解析する。 Th-MycNを持ったXヘテロマウスについては現在交配を進めている。十分量のマウスが確保できたら、以前と同じプロトコールに従いRNAシーケンスを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
Th-MycNと掛け合わせたXヘテロマウスのシングルセルRNAシーケンスが出来なかったため、未執行額が生じた。次年度以降、十分量のマウスが確保できれば、この実験に計上する。
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