研究課題/領域番号 |
22K07048
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研究機関 | 北海道立衛生研究所 |
研究代表者 |
孝口 裕一 北海道立衛生研究所, その他部局等, 主幹 (50435567)
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研究分担者 |
遠海 重裕 帝京大学, 医学部, 講師 (40796257)
日高 正人 北海道立衛生研究所, その他部局等, 研究職員 (10911381)
松山 紘之 北海道立衛生研究所, その他部局等, 研究職員 (80911396)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 多包条虫 / E. multilocularis / Echinococcosis / 薬剤開発 / ベラパミル / コラゲナーゼ / アトバコン / エキノコックス症 |
研究実績の概要 |
2023年(R5年)度、①多包条虫の中間宿主における病巣を作成し病巣の脆弱化実験を継続した。マウス実験感染後7~16週までのシスト(3mm程度)を摘出、病理切片を作成・クチクラ層を観察した。昨年度までに、摘出シストに直接糖鎖分解酵素を作用させても実組織に阻まれて、クチクラ層の分解に至らないことが分かっていた。今年度は、昨年度に引き続き、糖鎖分解処理の前に、コンドロイチナーゼおよびコラゲナーゼ処理を行い病巣を処理した。処理後のシストをPAS染色を用いて糖鎖病理像を観察すると、実組織は完全に取り除かれ、クチクラ層が露出し、糖鎖処理可能な状態となった。2023年度は、まだ課題は多いが新しい治療法開発に一歩近づいた。②本寄生虫は、好気および嫌気呼吸のどちらも使用することができることが知られているが、先に我々が見出したアトバコンは好気呼吸のみしか阻害できず、嫌気呼吸は阻害しない。抗エキノコックス薬候補である、アトバコンに加え、既報で抗エキノコックス効果のある、ベラパミルをアトバコンに加え、当該寄生虫にin vitroで作用させた。その結果、アトバコンにベラパミルの組合せは、嫌気下でも顕著にエキノコックスの原頭節(幼虫)が死滅し、相乗効果が認められた。このことは、将来的に現行使用されているアルベンダゾールの他に新しい薬剤の選択肢ができる可能性を示している。次年度以降、マウス病巣治療に移行する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、エキノコックス症に対する新しい治療(予防)薬や治療方法を開発するため、実際に虫卵を投与し、作成した病巣を用いて、直接酵素処理を行い、病巣を脆弱化させるという試みである。本研究の中で実組織の酵素的溶解に成功し、2023年度は、溶解後の病巣のPAS染色により、病巣がクチクラ層のみの状態となっていることを確認した。また、薬剤候補群のin vitroでの効果判定により、好気的条件下では効果があるが、嫌気的条件下では効果がない抗エキノコックス薬候補である、アトバコンにベラパミルを組み合わせることで、好気・嫌気両方の条件下において、良好なエキノコックス原頭節殺滅作用を明らかにすることに成功した。昨年度の3-ブロモピルビン酸に引き続き、アトバコンの効果を補完する新たな候補を見出した。六鉤幼虫の活性化実験は、コトンラットの胆汁を使用したが、顕著な活性化の変化は見られなかった。原因は、虫卵側の活性にあると考えられ、新たな解決すべき課題が発生したが、これが解決されれば一層のエキノコックス制御に係る研究に幅広く貢献することが見込める。次年度以降、新鮮且つ、虫卵排出日ごとに採卵し、活性化しやすい(成熟卵の多い)虫卵の見極め方を検討する。 これらのことから、2023(R5)年度の実施計画のとおり、おおむね順調に研究を進められたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2023年(R5年)度以降、①引き続きコンドロイチナーゼ処理などによる実組織除去後に、糖鎖分解酵素により病巣のクチクラ層を脆弱化させる治療法開発を進める。糖鎖分解酵素をはじめ、クチクラ層の形成阻害剤などを用いて、宿主免疫からの受傷性や、既存薬剤の浸透性向上に向けた実験を行う。②エキノコックスのエネルギー産生を司る、好気的・嫌気的呼吸鎖両方を阻害する薬剤候補を組み合わせた、安全で効果的なヒトの治療薬開発を来年度以降もさらに継続する。具体的には抗エキノコックス薬候補である、アトバコンに加え、既報で抗エキノコックス効果の報告のある、ベラパミルをアトバコンに加え、マウス病巣治療に移行する予定である。③活性化させた六鉤幼虫を用いた培養系による予防薬開発を行うことを目的とするが、新鮮な虫卵が確保でき次第、研究を進める中で新たに気付いた課題、すなわち虫卵排出日による、成熟卵(成熟オンコスフェラ)の多い・少ないを判定することが先決である。これについては、虫卵の次亜塩素酸ナトリリウム処理により、オンコスフェラの数を数えることで、成熟卵を計数するなどの判定法を見出して行く予定である。これをクリアできれば、六鉤幼虫の活性化および培養に道筋をつけ、培養系による予防薬開発が進むと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度(R4年度)には、帝京大学医学部でのコロナウイルス患者受け入れが生じていた。分担研究者の遠海は、臨床医であるため、その対応により研究打ち合わせ見合わせ等による旅費の未使用もあり研究費の使用が無かった。R5年度は研究予算が概ね計画通り使用された。残額は、R4年度から繰り越されたもので、R6年度以降、研究打ち合わせ、学会発表、研究遂行のための試薬などに使用する。
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