研究課題
M. pneumoniae の細胞接着を強く阻害する抗P1モノクローナル抗体(P1-MC4)は、P1タンパク質のC末側を抗原として作製された。段階的にアミノ酸配列を欠失させた組換えP1を用いたウエスタンブロット分析では、P1-MC4が認識するエピトープはC末端側の13アミノ酸残基T1426-D1438(TDLFDPVTMLVYD)だった。また、P1-MC4抗体のアミノ酸配列も明らかにした(DDBJ/ENA/GenBank Accession No.LC600310、LC600311、LC600312)。細胞接着阻害の機序を詳しく知るため、P1-MC4のFab 断片と精製P1の結合体を調製し結晶化を試みた。しかし、結晶は得られなかった。P1-MC4は2種類のL鎖を含んでおり、これが結晶が得られない大きな要因と考えられた。大阪大学、スペイン IBMB-CSIC との共同研究で、クライオ電子顕微鏡によるP1-Fab結合体の構造解析を行い2.4Åの解像度で構造を解明した(EMDB: 8ROR)。構造解析でもP1-MC4のエピトープ部位はウエスタンブロットで調べた13アミノ酸と同じであることが確認された。P1はP40/P90 とそれぞれが2分子ずつの4量体構造で細胞接着タンパク質として機能していると考えられているが(Nap構造)、構造解析データはNap構造が閉じた状態では、P1-MC4抗体がエピトープ部位にアクセスできないことが示された。P1-MC4が細胞接着阻害活性を発揮する過程ではNapが動的な構造変化を起こしP1-MC4がエピトープにアクセスできる開いた構造をとると考えられる。このような、構造解析の知見に基づき、細胞接着阻害抗体を効率よく誘導するワクチン抗原のデザインを進めている。また、細胞接着阻害抗体の誘導が、 M. pneumoniae の感染防御に有効かを検証していく。
3: やや遅れている
構造解析によって P1-MC4が作用する分子機構がかなり明らかになったが、この情報を利用して、細胞性接着阻害抗体を効率よく誘導するワクチン抗原のデザインと、その実証実験が遅れている。
エピトープ解析によって得られた P1タンパク質の13 アミノ酸の配列、および、その近傍の配列を含む抗原タンパク質を複数デザインして作製する。抗原タンパク質でマウスを免疫することによって細胞接着阻害抗体が生産されるか実験を行う。細胞接着阻害抗体が効率よく生産される抗原タンパク質を選び、ワクチン抗原候補とする。マウスへの投与方法はタンパク抗原の投与のみではなく、DNA、RNA核酸ワクチン形式での投与方法も検討する。
予想よりも新規の試薬類などを購入する必要がなく実験を進めることができたため。
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