研究課題/領域番号 |
22K07068
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
紙谷 尚子 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 准教授 (40279352)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ピロリ菌 / CagA / PAR1b / BRCA1 |
研究実績の概要 |
日本人の胃癌患者の99%は、cagA遺伝子を保有するCagA陽性ピロリ菌の慢性感染を基盤として発症する。ピロリ菌は菌体内で産生したCagA蛋白質をヒト胃上皮細胞内に注入する。CagAは上皮細胞極性の形成・維持に必須の役割を担うPAR1bに結合し、そのキナーゼ活性を抑制する結果、上皮細胞極性を破壊する。同時に、CagAはPAR1bを抑制することによりBRCA1の核移行を阻害し、ゲノム不安定性を誘導する。申請者は先行研究において、PAR1b以外のキナーゼによるリン酸化もまたBRCA1の核移行に必要であることを見出した。そこで本研究では、ヒトのキナーゼを標的としたsgRNAライブラリを利用し、BRCA1をリン酸化する責任キナーゼを同定し、CagAがキナーゼ活性に与える効果を解析する。 今年度は、BRCA1の核移行を評価する実験系を構築した。相同組換え修復レポーター(HR-GFP)は、制限酵素I-SceIにより生じたDNA二本鎖切断が相同組換えによって修復された場合にのみGFPを発現する。核内BRCA1は相同組換えに必須であることから、BRCA1が核移行した細胞はGFP陽性となる。当初の計画では、ヒト胃上皮細胞由来のAGS細胞を用いてHR-GFP安定発現株を作製し、I-SceI-RFP発現ベクターを一過性導入し、「RFP陽性GFP陽性」と「RFP陽性GFP陰性」にソーティングする予定であった。しかしながら、sgRNAスクリーニングに必要となるRFP陽性細胞数が得られなかった。そこで、樹立したAGS細胞由来のHR-GFP安定発現株を用いて、Tet-onシステムでI-SceI-RFPを誘導発現する安定発現株を作製した。ドキシサイクリン添加により、ほぼ全ての細胞でI-SceI-RFPが誘導されることを確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、相同組換え修復レポーター(HR-GFP)を安定発現する細胞株を作製し、I-SceI-RFPの一過性発現によりDNA二本鎖切断を誘導する予定であった。しかしながら、sgRNAスクリーニングに必要となるRFP陽性細胞数が得られなかったため、Tet-onシステムによりI-SceI-RFPを誘導する実験系に変更した。樹立した安定発現株については、ドキシサイクリン添加により、ほぼ全ての細胞でI-SceI-RFPが誘導される。当初の予定より実験系の構築に時間を要したが、より精度の高い実験系にブラッシュアップすることができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトのキナーゼを網羅的に標的としたsgRNAライブラリを利用して、BRCA1の核移行に関与するキナーゼのスクリーニングを行う。樹立したTet-onシステムでI-SceI-RFPを誘導する相同組換え修復レポーター安定発現細胞にsgRNAライブラリを導入し、ドキシサイクリン添加によりDNA二本鎖切断(DSB)を誘導する。DSBが相同組換えによって修復されるとGFP陽性細胞となることから、GFP陽性をBRCA1核移行の指標とする。言い換えると、GFP陰性細胞では、DSBが相同組換えによって修復されていないことから、その一因としてBRCA1の核移行が阻害された可能性が考えられる。一定期間の培養後、細胞を回収し、セルソーター(FACS)によりGFP陽性細胞とGFP陰性細胞にソーティングする。細胞からゲノムDNAを抽出し、sgRNA配列領域をPCR増幅する。次世代シーケンサー解析を行い、GFP陰性細胞に特異的なsgRNA配列を同定する。BRCA1をリン酸化する候補キナーゼについて、特異的siRNAを用いたノックダウン実験を行い、免疫染色によりBRCA1の細胞内局在を解析する。また、候補キナーゼの特異的阻害剤が入手可能な場合は、阻害剤についても検討する。
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