研究実績の概要 |
本研究では、緑膿菌の病原性抑制薬の開発に向け、本菌のクオラムセンシング(QS)(細胞密度検知機構)においてアシルホモセリンラクトン(AHL)レセプターとして機能するRhlRとQscRの作用機序の解析に取り組んでいる。以下にそれぞれの課題に関する研究実績の概要を記述する。 1. RhlRの分子機能の解明 RhlRは、極度に不安定であり、容易に凝集して失活するという特性を持つ。本研究の目的は、活性を有し安定で単離精製が可能な変異型RhlRを取得し、分子機能を解析することである。令和4年度は、N末端付近のαヘリックス内に存在する疎水性アミノ酸残基(Gly5, Gly6, Leu9, Gly13, Pro20)を、それぞれ親水性のアミノ酸(リジンもしくはアスパラギン酸)に置換した変異RhlRの発現系を構築した。大腸菌宿主細胞内で発現させ、可溶性画分への蓄積量をSDS-PAGEで確認した結果、Gly6とLeu9のアスパラギン酸への置換は、それぞれにRhlRの可溶性を高める効果があることが確かめられた。 2. QscRの作用機序の解明に向けたPA1895-1897の機能解析 QscRはQSの発動を抑制する働きを示すが、その作用はQscRの直接の支配下にあるPA1895, PA1896, PA1897の3遺伝子(PA1895-1897)の働きを介して生じることが判明している。PA1895-1897の具体的機能は未解明であるが、本研究代表者は、これらがコードしているのはAHLを分解または修飾する酵素であると推察している。令和4年度は、緑膿菌の無細胞抽出液に、QscRやPA1895-1897に依存的なAHLの分解・修飾活性があることを確認した。さらに、当該活性因子の細胞内局在性の解析に取り組んだ結果、無細胞抽出液中の成分を超遠心分離により可溶性画分と膜画分に分離すると、活性が不可逆的に失われることが判明した。
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