研究課題
Clostridioides (Clostridium) difficile感染症(CDI)は、C. difficileが原因で発症する難治性の下痢症・腸炎である。その治療には抗菌薬が使用されるが、正常な腸内細菌叢の乱れによりCDIの再発を繰り返すことがある。従って、原因となるC. difficileのみを特異的に殺菌する新規治療法の確立が急務である。研究代表者らは、その治療候補の1つとしてバクテリオファージ(ファージ)に着目した。ファージは、自然界に普遍的に存在しており、宿主となる細菌に特異的に結合し殺菌活性を示す。本研究課題では、ファージの特性を利用したCDIの新規治療法の確立を目指し研究開発を行っている。本年度においては、ファージの宿主認識分子(尾部吸着分子)と推定した2つの遺伝子産物(Hisタグ融合ORFA、Hisタグ融合ORFB)のC. difficile リボタイプ027株に対する結合性について、enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA) の条件検討を行った。一次抗体にHisタグ抗体を用いたELISAによる検出法では、非特異的な検出が認められた。そこで、精製His融合ORFAまたはHis融合ORFBを直接horseradish peroxidase(HRP)で標識し、C. difficileに対する結合性を調べたところ、時間依存的および濃度依存的に結合することが明らかとなった。現在、他のリボタイプ株に対する結合性について解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、まず、精製した2つの組換えタンパク質(Hisタグ融合ORFA、Hisタグ融合ORFB)のClostridioides difficileに対する結合性について、ORFAまたはORFBに対する抗体を用いたenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA) により評価する予定にしていた。本検出の中で、ORFAまたはORFBに対する抗体の作製には時間を要することから、ELISAでの検出に一次抗体としてHisタグ抗体を用いて検出することにした。しかしながら、Hisタグ抗体を用いることで、特異的な結合のみを検出することが困難であった。そこで、ORFAまたはORFBに直接horseradish peroxidase(HRP)標識することで、C. difficileに対する結合性を検出することにした。その結果、作製したHRP標識ORFAまたはORFBを用いることで、時間依存的および濃度依存的なC. difficileへの結合が認められた。現在、他のリボタイプに対する結合性についても調べている。
研究代表者が単離したバクテリオファージ(ファージ)のClostridioide difficile に対する結合は、ファージのゲノム情報からORFAおよびORFBを含む数種のタンパク質(尾部吸着分子)が機能している可能性を考えた。そこで、ORFAおよびORFB以外のタンパク質を作製することが必要となった。本作製において、中型恒温振とう培養機を用いることで効率よく種々の組換えタンパク質を発現することが可能となる。発現したタンパク質のC. difficile に対する結合性を調べる。1)推定した吸着分子をコードする遺伝子を人工遺伝子合成し、これを発現用ベクターに挿入する(プラスミド構築)。2)本プラスミドを大腸菌発現系により組換えタンパク質(Hisタグ融合タンパク質)として発現させ、コバルトアフィニティクロマトグラフィーにより精製する。3)作製したHisタグ融合タンパク質のC. difficileに対する結合をEnzyme-Linked Immunosorbent Assay (ELISA) およびウエスタンブロット法により解析し、C. difficileに対する吸着分子の特異性を明らかにする。ウエスタンブロット法においては、画像解析装置一式を用いて作製した種々の吸着分子のC. difficileへの結合性を評価する。
次年度の研究計画では、単離したバクテリオファージ(ファージ)のゲノム情報から推定した尾部吸着分子の機能解析を進める。今年度の未使用額は、次年度に繰り越して、本実験で使用する培地やアフィニティー担体などを購入し、研究を遂行することにした。また、研究分担者の未使用額も同様の目的で使用する予定である。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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