研究課題/領域番号 |
22K07094
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
日吉 真照 国立感染症研究所, 次世代生物学的製剤研究センター, 主任研究官 (40448519)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ウイルス粒子形成 / 宿主因子 / HTLV-1感染伝播 |
研究実績の概要 |
正常T細胞では発現しない宿主因子M-Secは、HTLV-1が感染したT細胞では異所性発現するようになる。我々は、HTLV-1感染T細胞において宿主因子M-Secの機能を阻害するとHTLV-1の感染伝播が抑制されることを明らかにしている。しかし、どのように宿主因子M-SecがHTLV-1感染に関与するのかは不明であるため、そのメカニズムを解析した。 宿主因子M-Secは多くの機能を持つことが様々な分野で明らかにされており、その機能のひとつとして細胞の運動性を上げることがわかっている。そこで、細胞運動能をTrans well assayで検証したところ、HTLV-1感染T細胞の運動能が上がっていることがわかった。感染細胞と標的細胞が物理的に接着してウイルスを受け渡すことで感染が成立するHTLV-1において、宿主因子M-Secは感染細胞の動きを活発にして標的細胞と接着する機会を増やすことで、感染を促進する可能性が考えられる。 一方、宿主因子M-SecはHTLV-1ウイルスに影響するのか検証した。M-Secを導入したT細胞株を作製して、M-Secの発現の有無でHTLV-1ウイルスのタンパク質に何か影響があるのか解析したところ、M-Secの発現によってHTLV-1のGagタンパク質が細胞内で強く凝集することがわかった。これまでの報告では、HTLV-1ウイルス粒子の形成にはまず、Gag punctaと呼ばれるGagタンパク質の凝集体の形成が重要であると言われている。そのため、本研究における結果は宿主因子M-SecはHTLV-1ウイルス粒子の形成促進することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HTLV-1感染における宿主因子M-Secの機能を明らかにするために解析を行った結果、宿主因子M-SecはHTLV-1感染T細胞の運動能を上げること、細胞内におけるHTLV-1 Gagタンパク質の凝集を促進することを明らかにした。これらの結果から、宿主因子M-Secは標的細胞の運動能をあげることで標的細胞と接着する機会を増加させ、同時に細胞内ではHTLV-1ウイルスの粒子形成を促進することで、HTLV-1感染伝播を促進している可能性が示唆せれた。これまでの別グループよる報告によって、HTLV-1ウイルス粒子形成には、まずGag punctaと呼ばれるGagタンパク質の凝集体が形成されることが重要であると考えられている。しかし、このHTLV-1ウイルス粒子形成に重要なステップであるGag puncta形成に関与する宿主因子については、ほとんど明らかにされていない。そのため今回新たに見いだした宿主因子M-SecによるHTLV-1 Gagタンパク質の凝集メカニズムについて、その分子メカニズムの解明は重要である。
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今後の研究の推進方策 |
今回明らかにした宿主因子M-SecによるHTLV-1 Gagタンパク質の細胞内凝集について、詳細なメカニズムの解析を行う。そのために、HTLV-1キャリア由来感染T細胞や培養細胞を用いて、M-Secの機能阻害や過剰発現によるHTLV-1 Gagタンパク質の細胞内局在を詳細に共焦点顕微鏡やタイムラプス撮影で観察する。また、宿主因子M-Secは細胞骨格分子と相互作用するという他のグループの報告があることから、宿主因子M-Secの機能阻害や過剰発現によってHTLV-1感染細胞の細胞骨格に影響があるのかを同様に解析を行い、HTLV-1 Gagタンパク質の凝集との関連を解析する。さらに、実際に宿主因子M-Secの発現によって、HTLV1ウイルス粒子形成にどのような影響があるのか解析する。そのために、宿主因子M-Secの機能阻害や過剰発現を行った細胞において、培養上清に含まれるウイルス量を測定する。それと並行して、細胞内のHTLV-1 Gagの量も確認する。また、このときのウイルス粒子の構造について電子顕微鏡観察の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
発注をしていた製品に納期が大幅に遅れることになったものがあったため、購入できなかった。 購入できなかった製品は、次年度では納入されることを確認しているので購入する予定である。
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