研究課題/領域番号 |
22K07104
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
有海 康雄 長崎大学, 高度感染症研究センター, 准教授 (60303913)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | SARS-CoV-2 / RNAウイルス / RNAヘリケース / コロナウイルス / RNA顆粒 |
研究実績の概要 |
RNAヘリケースはRNAの転写、スプライシング、翻訳、分解など、種々のRNA代謝に関与し、P-body、ストレス顆粒や核小体などRNA顆粒に局在する。新型コロナウイルスSARS-CoV-2は30kbとRNAウイルスでは最大クラスのRNAゲノムを保持している。本研究では、この巨大なウイルスRNAゲノムをどのように制御維持しているのか、宿主RNAヘリケース及びRNA顆粒にフォーカスをあて、巨大なSARS-CoV-2のRNAゲノムを制御するメカニズムを解明し、創薬につなげたい。 SARS-CoV-2をVeroE6 TMPRSS2細胞やHEK293T TMPRSS2細胞に感染させると、興味深いことにRNA顆粒であるP-bodyの形成破綻が観察された。さらに経時観察すると、感染6時間の初期においては、Nucleocapsidタンパク質の発現が細胞質において弱く確認できたが、未だ、P-bodyは形成されたままであった。一方、ウイルス感染24時間経過後は、細胞質にNucleocapsidタンパク質が強く発現し、P-body形成の破綻が観察された。次にどのP-body因子が破綻しているのか検討した結果、少なくともDDX6やMOV10などのRNAヘリケースはじめ、XRN RNAエンドヌクレアーゼなどのP-body形成がSARS-CoV-2感染に伴い、破綻していることが見出された。 さらにP-body因子 DDX6のSARS-CoV-2感染増殖における役割を解明するために、DDX6をノックダウンした細胞にSARS-CoV-2を感染させると、SARS-CoV-2の感染増殖の顕著な抑制が見出された。以上の結果より、SARS-CoV-2感染に伴い、宿主細胞のP-body形成を破綻させ、DDX6 RNAヘリケースをハイジャックすることにより、自身のウイルス増殖に利用していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SARS-CoV-2の感染に伴い、DDX6やMOV10 RNAヘリケースによるP-body形成破綻を見出した。さらに本研究により、SARS-CoV-2はP-body形成を破綻させ、宿主のDDX6 RNAヘリケースをハイジャックすることにより、自身のウイルス増殖に利用していることを示唆した。これらの研究成果を長崎市で開催された第69回日本ウイルス学会において、口頭発表した。また、筆頭著者として、Journal of Virology誌に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、SARS-CoV-2がどのような分子メカニズムでP-body形成を破綻させているのか解明したい。一方、もう一つのRNA顆粒であるストレス顆粒とSARS-CoV-2感染との関係についても検討したい。さらに先行研究ですでに見出しているDDX21 RNAヘリケースの抗ウイルス活性の分子機構についても明らかにしたい。SARS-CoV-2自身もNSP13 RNAヘリケースをコードしているので、宿主RNAヘリケースとの相互作用についても解析を行う。そして、異なるRNAヘリケースがどのようにして、30kbという巨大なSARS-CoV-2 RNAゲノムを制御しているのか、その制御機構の全容を解明し、RNAヘリケースを標的とした創薬に繋げていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の途中で所属期間を国立感染症研究所から長崎大学高度感染症研究センターへ異動したため。また購入予定の外国輸入の抗体と普段実験に汎用している免疫蛍光抗体法に用いるNunc 2 well chamber slide納品が半年以上要するため、次年度に繰り越しました。翌年度は、これらの抗体とchanmber slideの購入に充てたい。また、コロナ禍で今年度は開催されなかったRNA顆粒に関する国際会議が、翌年度10月、英国にて開催予定であるので、これまでのSARS-CoV-2感染とRNA顆粒、RNAヘリケースに関する研究成果を発表予定である。
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