研究実績の概要 |
近年リバースジェネティクス法を用いて、インフルエンザウイルス遺伝子に外来性遺伝子を組み込んだ組換えウイルスを作出することが可能になった。しかし、新型コロナウイルスのスパイク蛋白質の抗原性に影響を与えることなく同蛋白質を保有した組換えインフルエンザウイルスを作製する技術は確立していない。本研究では、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する2種混合ワクチンを製造するための基盤技術を確立することを目的として、リバースジェネティクス法を用いて、新型コロナウイルスの感染防御抗原(スパイク蛋白質)を持つ組換えインフルエンザウイルスを作出する。 本研究代表者らは、発育鶏卵で高い増殖性を示す組換えインフルエンザウイルス株(高増殖性A/Puerto Rico/8/34(H1N1)(Ping et al., Nat. Commun., 2015)を作出している。本年度は、A/Puerto Rico/8/34株由来の7種類のウイルス遺伝子(PB2, PB1, PA, HA, NP, NA, M)を発現するプラスミドと4種類のインフルエンザウイルス蛋白質(PB2, PB1, PA, NP)を発現するプラスミドを準備した。NS遺伝子は、インフルエンザウイルスが持つ8種類の遺伝子(PB2, PB1, PA, HA, NP, NA, M, NS)の中で、サイズが最も小さいことから、大きなサイズの外来性遺伝子を組込むことが可能である(Kittel et al., J Virol, 2005)。本年度は、さらにNS遺伝子を改変して、NS1遺伝子、NS2/NEP遺伝子、並びに新型コロナウイルスのスパイク遺伝子を発現するプラスミドを作出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
インフルエンザウイルスのNS1遺伝子とNS2/NEP遺伝子、並びに新型コロナウイルスのスパイク遺伝子を発現するプラスミドを作出するため、A/Puerto Rico/8/34のNS遺伝子に、スパイク蛋白質のS1ドメインを挿入した。また、NS1とS1ドメインとの間には口蹄疫ウイルス由来の2A蛋白質認識配列(F2A)を挿入し、S1ドメインとNEPとの間には、インフルエンザウイルスHA由来の膜貫通ドメイン (TM/CT)とブタテッショウウイルス由来の2A蛋白質認識配列 (P2A)を挿入した。 また、スパイク蛋白質のS1及びS2ドメイン (S1+S2)を挿入した改変NS遺伝子を作出するため、S1+S2には、膜融合活性を消失するためにアミノ酸変異を導入した。さらに、NS1と変異S1+S2との間にはF2Aを、変異S1+S2とNEPとの間には、 TM/CTとP2Aを挿入した。 A/Puerto Rico/8/34株由来の7種類のウイルス遺伝子(PB2, PB1, PA, HA, NP, NA, M)を発現するプラスミドと4種類のインフルエンザウイルス蛋白質(PB2, PB1, PA, NP)を発現するプラスミドも準備した。
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今後の研究の推進方策 |
A/Puerto Rico/8/34株由来の7種類のウイルス遺伝子(PB2, PB1, PA, HA, NP, NA, M)と、R4年度に作出した改変NS遺伝子を発現するプラスミド、ならびにA/Puerto Rico/8/34株由来の4種類のウイルス蛋白質(PB1,PB2,PA,NP)を発現するプラスミドを293T細胞に導入して組換えウイルスを回収する。これを10日から11日齢の発育鶏卵、あるいは培養細胞で増やした後、密度勾配遠心法を用いてウイルス粒子を精製する。スパイク蛋白質に対する抗体を用いたELISAあるいはウェスタンブロット法により、粒子中に取り込まれたスパイク蛋白質を検出する。また、変異NS遺伝子の遺伝的安定性を調べるため、発育鶏卵あるいは培養細胞で10回継代した組換えウイルスの遺伝子を解析する。 なお、NS遺伝子に組み込まれた変異S遺伝子が効率よく発現しなかった場合は、他のインフルエンザウイルス遺伝子(NA遺伝子など)に組み込む予定である。
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