研究課題
アトピー性皮膚炎は、増悪と寛解を繰り返す掻痒の強い湿疹を全身に認める慢性皮膚炎症性疾患である。近年新たな治療薬も登場しているものの、難治例はいまだ多く、根本的かつ安価な治療薬の開発が求められている。この課題の解決のため、我々は、マウスアトピー性皮膚炎モデルとしてIgE依存性慢性皮膚アレルギー炎症(IgE-CAI)を樹立した。本モデルにおいては希少な白血球の一種である好塩基球が炎症誘導に必須の役割を果たす。一方、炎症後期には、好塩基球は炎症抑制型の単球由来マクロファージが誘導され、炎症を収束に向かわせることも解明されている。しかしながら、単球由来マクロファージが炎症抑制機能を果たす機序はほとんどわかっていない。研究代表者は、単球由来マクロファージによるアレルギー炎症抑制機構を解明するために、IgE-CAIの皮膚炎症局所を高感度の1細胞RNAシーケンス(scRNA-seq)にて解析した。その結果、炎症早期と炎症後期では、単球由来マクロファージは全く異なる遺伝子発現を示すことが明らかになった。特に、炎症後期の単球由来マクロファージではアポトーシス細胞貪食に重要な遺伝子(Gas6, Mertk等)が高発現していた。実際にアポトーシス細胞貪食のインヒビターを用いてIgE-CAIを誘導すると、炎症細胞浸潤や耳介腫脹が有意に増加することが明らかになった。このことから、炎症後期のM2マクロファージは、炎症局所に存在する死細胞を速やかに除去することで、炎症抑制機能を果たしていることが示唆された。以上から、炎症局所へと浸潤した単球は早期単球由来マクロファージを経て後期単球由来マクロファージへと分化し、死細胞貪食能が向上することで、速やかに死細胞を貪食し、炎症収束へと向かわせることを解明した。以上の研究成果は現在論文投稿中であり、2022年度にプレプリント誌として発表した。
2: おおむね順調に進展している
炎症性単球から炎症抑制型の単球由来マクロファージへの分化経路を1細胞RNAシーケンスやフローサイトメトリーを組み合わせることにより解明し、2022年度にプレプリント誌Research Squareに発表した。現在本論文内容は国際学術誌に投稿中であり、2023年度中に研究成果を正式に発表できる可能性が極めて高いため。
今年度の研究により、炎症性単球から早期単球由来マクロファージ、後期単球由来マクロファージといった分化経路を特定できた。今後はさらに、早期単球由来マクロファージから炎症抑制型の単球由来マクロファージへの分化がどのような分子メカニズムによって制御されているのかを、1細胞RNAシーケンス解析を応用することによって突き止めていく予定である。
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皮膚科
巻: 3 ページ: 130-137
Frontiers in Immunology
巻: 13 ページ: 900532
10.3389/fimmu.2022.900532
巻: 13 ページ: 902494
10.3389/fimmu.2022.902494