研究課題/領域番号 |
22K07133
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
榛葉 旭恒 京都大学, 医学研究科, 助教 (30812242)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ストレス / ヘルパーT細胞 / MMP25 |
研究実績の概要 |
PTSDなどの精神疾患患者は関節リウマチを合併するリスクが高まることが報告されていることから、ストレス時に分泌される因子は自己免疫疾患の発症と増悪に寄与する可能性がある。申請者は以前に副腎皮質ステロイドホルモンであり免疫抑制剤でもあるグルココルチコイドが、自己免疫疾患の発症を促進するTH17細胞の分化をむしろ助ける作用を持つことを発見していた。この発見から、ストレス時に産生されるグルココルチコイドがTH17細胞の分化や機能を促進して、関節リウマチの病態を悪化させるという仮説を見出すに至った。 この仮説を検証するため、T細胞特異的にグルココルチコイド受容体(GR)が欠損するCD4Cre-GRcKOマウスと、関節リウマチモデルであるSKGマウスを交配し、関節リウマチの炎症時にグルココルチコイドがT細胞に与える作用を調べた。その結果、cKOマウスはコントロールマウスに比べて下肢関節の炎症の程度が低く、関節に浸潤したTH17細胞の割合も減少していたことから、関節リウマチモデルにおいてもグルココルチコイドがTH17細胞の割合を増加させ、病態の悪化に寄与することが示唆された。加えて、cKOマウスでは関節部に浸潤する好中球の細胞数が減少していたことから、TH17細胞が産生するIL-17が好中球の動員に繋がったと考えられる。 グルココルチコイドはTH17細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ25(MMP25)の発現を誘導する可能性がある。関節部のT細胞を単離した際には、cKOマウスのMMP25の発現が減少したことから、関節リウマチモデルにおいてもグルココルチコイドがMMP25の発現誘導に寄与することが示唆された。また、RNA-seqの結果から、MMP25がTH1、TH2、Tregなど他のT細胞サブセットに発現していないことを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、グルココルチコイド受容体が関節リウマチモデルにおいてもTH17細胞の分化を促進し、病態の悪化に寄与していることを確かめられた。また、グルココルチコイドがTH17細胞の分化を促進したことで、好中球の動員が増加することを確認できた。加えて、網羅的な遺伝子発現の結果から、各T細胞サブセットの遺伝子発現を比較したところ、TH17細胞のみがマトリックスメタロプロテアーゼ25(MMP25)を高く発現していることを発見した。また、グルココルチコイドが生体内においてもTH17細胞のMMP25の発現を増加させることを確認した。以上から、ストレスホルモンであるグルココルチコイドがTH17細胞に寄与して関節リウマチの病態に寄与するという考えを支持しているため、ほぼ満足できる達成度と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ストレスが誘導するグルココルチコイドがTh17細胞および関節リウマチの病態に寄与する機構を調べる。そのために、まず適切なストレスモデルを構築する必要がある。また、よりヒトが感じるストレスに近しいモデルが良いと考えるため、うつ病モデルや社会挫折ストレスモデルなどを検討し、関節リウマチの病態への影響を確かめる。さらに、構築したストレスをグルココルチコイド受容体欠損マウスに導入し、コントロールマウスと病態の程度を比較することで、ストレス時に産生されるグルココルチコイドの病態への寄与を確かめる。 また、網羅的遺伝子発現解析によって、T細胞サブセットの中でMMP25を高く発現するのはTH17細胞のみである可能性が高いことを見出した。TH17細胞が発現するMMP25の基質分解能を確認した上で、病態への寄与を検証する。加えて、病原性TH17細胞を除去するには、抗MMP25抗体を用いることが有用である可能性がある。MMP25がTH17細胞の細胞表面マーカーとして有用か、検証する。
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