研究課題/領域番号 |
22K07150
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田畑 祥 大阪大学, 蛋白質研究所, 特任講師(常勤) (30708342)
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研究分担者 |
曽我 朋義 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 教授 (60338217)
坂本 毅治 関西医科大学, 医学部, 教授 (70511418)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 2-ヒドロキシグルタル酸 |
研究実績の概要 |
がん細胞の悪性化は、特異的な代謝を必要とする。高増殖のがん細胞は、解糖系を亢進して増殖に有利なエネルギーおよび生体高分子を産生し、一方、がん幹細胞や抗がん剤耐性細胞は、グルタチオンなどの抗酸化物質を増加させて、低酸素や抗がん剤治療下でも生存することができる。我々は、ヒト大腸がん組織で独自の網羅的代謝解析(メタボローム解析)を行い、L-2HGレベルが有意に上昇することを、見出している。L-2HGは、近年注目されている、直接的にがんの悪性化に関わる代謝物質:オンコメタボライトであるが、その分子メカニズムは十分に理解されていない。
我々は、遺伝子発現(トランスクリプトーム)解析および、メタボローム解析を組み合わせた統合的オミックス解析によって、L-2HGが誘導する遺伝子発現および代謝制御機構を多角的に探索した。その結果、L-2HGは、アミノ酸代謝のマスター転写因子ATF4を活性化させることを見出した。また、L-2HGは、ATF4の標的遺伝子であるセリン合成経路のPHGDH、PSAT1、一炭素代謝のMTHFD2、アミノ酸トランスポーターのSLC7A5、SLC7A11などの発現を亢進し、アミノ酸代謝をリプログラミングすることがわかった。さらに、ヒト大腸がん組織および大腸がん培養細胞を用いた遺伝子発現解析で、L2HGDHおよびOGDH遺伝子の発現減少が、L-2HG産生を上昇させることが明らかになり、担癌マウスモデルでL2HGDHノックダウンは腫瘍を増大させた。これらの結果は、大腸がんにおけるL2HGの新規分子メカニズムを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々は、大腸がんにおけるL-2HGの分子基盤の解析を行い、これまでに次のことを明らかにした。
① L2HGは、アミノ酸代謝のマスター転写因子ATF4を活性化させる。② L-2HGは、ATF4の標的遺伝子であるセリン合成経路のPHGDH、PSAT1、一炭素代謝のMTHFD2、アミノ酸トランスポーターのSLC7A5、SLC7A11などの発現を亢進し、アミノ酸代謝をリプログラミングする。③ 鏡像異性体D-2HGと比べて、L-2HGのATF4を活性化させる作用は強い。④ 大腸がんにおいてL2HGDHおよびOGDH遺伝子の発現減少が、L-2HGを上昇させる。⑤ 担癌マウスモデルで、L2HGDHノックダウンは腫瘍を増大させる。
2022年度は、上記結果を論文化した (Tabata et al, Oncogene, 2023)。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の検討を行う。
① In vitroのプレリミナリーな検討で、L-2HGは、脂質代謝を変化させることが示唆された。複数の細胞株で、同様な代謝変化が起きるか検討する。② In vitroで観察された、L-2HG処理で誘導される脂質代謝変化が、ヒト大腸がん組織においても観察されるか検討する。③ L-2HGが脂質代謝を変化させる分子メカニズムの解析を行う。脂肪酸合成および分解経路の遺伝子発現解析およびその活性を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定より2022年度の実験物品に必要な費用および、論文掲載料が少なかった。今後の使用計画としては、実験試薬購入、研究打ち合わせ、学会発表などの費用に見立てる。
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