研究課題/領域番号 |
22K07155
|
研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
馬場 崇 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (90609992)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 乳酸 / マクロファージ / Il23a |
研究実績の概要 |
がん細胞は解糖系を亢進させ、乳酸を過剰に産生・分泌している。そのため、マクロファージを初めとする多様な免疫細胞は腫瘍内に浸潤すると高乳酸環境に晒される。乳酸はマクロファージをM2型に極化させるが、それはHIF1aの転写誘導や乳酸イオンによる直接的なヒストン修飾が関与する。加えて、乳酸はマクロファージのIl23aのToll受容体刺激に伴う転写誘導を増加させる。本研究では、1) 乳酸により活性化するPI3K/Akt経路が発現誘導する遺伝子群の特定、2)乳酸依存的なIl23aの誘導を増加させる分子機構解明を目的としている。2)の目的のため、Il23aのプロモーター活性を指標としたゲノムワイドCRISPRスクリーニングを行い、ミトコンドリア局在タンパク質、翻訳後修飾に関わる酵素さらに転写因子が乳酸依存的な転写増加に関わることがわかってきた。これらの因子が高乳酸環境において機能的に影響されるかを調べたところ、高乳酸環境は同定された酵素の活性を低下させ、転写因子の核内量は増加することがわかった。以上の実験はマクロファージ様細胞株J774.1細胞を用いたが、骨髄由来マクロファージや脾臓のCD11b陽性細胞など初代培養細胞では、細胞株とは異なる機構を介しIl23aの転写を増強させている可能性が示唆された。乳酸依存的なIl23a転写増幅機構は未解明であり、少なくともGPCRやHIF1aと言ったこれまで報告されている乳酸添加により活性化する分子は関わってはいない。本研究により、新たな乳酸依存的な活性化因子が見出されると共に、将来的には腫瘍の進展を抑える分子標的薬の開発に繋がることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞種によるIl23aの転写増幅機構の違いは予想外であったが、目的の遺伝子のスクリーニングに成功し、乳酸依存的なIl23aの転写増幅機構に関与するタンパク質が分かってきた。加えて、乳酸がそれらのタンパク質に与える影響も解明されつつある。これらのことから、目的の一つは達成されつつあり、おおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
骨髄由来マクロファージにおいてスクリーニングされた遺伝子がIl23aの転写をどの様に制御するかを紐解いていく。また、これまで細胞での解析が主だったが、in vivo解析のためノックアウトマウスを作製する。PI3K/Akt経路に関しては、乳酸がPI3K/Akt経路を介して誘導する遺伝子群の特定をRNA-seqにより調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
消耗品や、高額な試薬、例えば抗体やELISA kitなどの使用量が当初の予定より少なかった。 次年度はピペット、チューブ、ディッシュなどの消耗品や細胞培養の培地、抗体やKitなどに使用する。また、第83回がん学会学術総会の旅費や参加費、論文投稿の際の英文校閲費、論文掲載費に使用予定である。
|