研究課題/領域番号 |
22K07162
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
佐藤 龍洋 愛知県がんセンター(研究所), 分子腫瘍学分野, 主任研究員 (70547893)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 中皮腫 / フェロトーシス |
研究実績の概要 |
悪性中皮腫は中皮細胞のがん化により発症する難治性のがんである。がんを促進するドライバー遺伝子の変異は稀であり、著効を示す分子標的薬は見つかっておらず、免疫チェックポイント阻害剤の奏功も20-30%にとどまる。私たちはこれまでに、フェロトーシスを誘導する化合物が特定の悪性中皮腫細胞株群に対して顕著な増殖抑制効果を示すことを明らかにしている。しかし一方で、フェロトーシスに対して抵抗性を示す細胞も存在することがわかってきた。 本研究ではまず初めに種々の遺伝子変異を持つ悪性中皮腫細胞株および正常不死化中皮細胞株に対してフェロトーシス誘導剤RSL3を添加し、細胞死が誘導されるかを検討した。各細胞について薬剤濃度に対する細胞増殖抑制率を観察し、50%増殖阻害濃度を算出した。細胞死がフェロトーシスによるものかについてはフェロトーシス阻害剤Ferrostatin-1を用いて検証した。次に細胞株をRSL3高感受性、低感受性の2群に分類し、有意に発現量に差異が認められる遺伝子の同定を行った。また、各種阻害剤を添加してRSL3感受性の変化する化合物を探索し、RSL3感受性に関わるシグナルの探索を行っている。 フェロトーシス細胞死は、従来の治療法に抵抗性を示すがん細胞や転移傾向の強いがん細胞に有効である可能性が示唆されており、悪性中皮腫に対する新規治療戦略として期待される。しかし、細胞死を実行するエフェクター分子などはいまだ不明であるなど未解明の部分も多い。本研究を進め、悪性中皮腫のフェロトーシス易誘導性を規定する分子基盤の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
悪性中皮腫細胞株の一部はフェロトーシス細胞死の誘導に対して高感受性を示し、低濃度のRSL3によって細胞死が誘導されることがわかった。一方、一部の悪性中皮腫細胞株および今回使用した4種の正常不死化(非がん化)中皮細胞株は低濃度のRSL3では細胞死が誘導されずに増殖した。RSL3低感受性、高感受性を示す悪性中皮腫細胞株計11株について発現変動解析を行い、発現量が有意に変化している遺伝子を同定した。現在ノックダウン解析用のshRNA発現プラスミドを作製し、ノックダウン効果を検討している。また、RSL3と共に各種阻害剤を併用投与したところ、一部の細胞株でRSL3の50%増殖阻害濃度が2倍程度低下する化合物を見出しており、さらに解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
RSL3感受性の異なる細胞株の発現変動解析を続行する。有意に発現変動する遺伝子のうち、フェロトーシスとの関係が示唆される遺伝子の抽出を行う。これら遺伝子についてノックダウンや強制発現を行い、悪性中皮腫細胞のRSL3感受性の変化を解析する。これらの解析によりフェロトーシス誘導に対する感受性に関わる遺伝子が見つからない際にはCRISPR-Cas9システム等を利用したスクリーニングを実施し、フェロトーシスに関わる遺伝子の探索を新たに実施する。阻害剤については所有する数十の細胞株で検討し、阻害剤によるシグナル伝達の変化とRSL3感受性の変化の関係についてさらに解析を行う。RSL3以外のフェロトーシス誘導剤についても検討し、フェロトーシス易誘導性に関わる分子基盤の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
所有するデータを用いた発現変動解析によって、悪性中皮腫のフェロトーシス易誘導性に関連する可能性のある遺伝子が抽出されたため、この遺伝子の解析を先に行うこととした。そのため、新たに行う予定だった発現変動解析の費用が次年度に持ち越されることとなり、次年度使用額が生じた。現在、すでにこの解析の準備にとりかかっており、研究計画はおおむね順調に進んでいる。
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