研究課題/領域番号 |
22K07163
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
伊藤 剛 秋田大学, 医学系研究科, 講師 (60607563)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | CAF / 細胞分裂 / PGCC / がん微小環境 |
研究実績の概要 |
癌組織において、癌細胞の周辺には線維芽細胞が存在する。癌細胞と線維芽細胞がお互いに応答することで、癌の悪性度が高まることが知られている。癌細胞に応答した線維芽細胞はCAF(Cancer associated fibroblast)と呼ばれ、癌細胞の細胞間接着の解除とその後の移動を加速している。本課題では、CAF存在下において、細胞分裂を進める癌細胞は細胞間接着の解除および癌細胞集団(50-100細胞が細胞間接着により集合した状態)からの脱離(癌分散)を有意に進めることを見つけた。また、分裂のタイミングと同期して細胞集団の細胞間接着の歪みが生じ、細胞集団の移動が活発となるという分裂の波及効果を明らかにした。さらに、課題では癌予後を悪化させる巨核・多核の癌細胞についても注目してきた。この癌細胞で構成される癌細胞集団では、CAF存在下における細胞間接着の解除が増進されることを見つけた。 巨核・多核癌細胞の発現遺伝子を検討した結果、通常癌細胞と比較して増加および減少する遺伝子群を明らかにした。さらに、CAFの培養上清でこの癌細胞を刺激すると、いくつかの遺伝子の発現変動は大規模となった。巨核・多核癌細胞からはある頻度で多極の不等分裂により異常な娘細胞を産生するが、CAFの存在下ではこの娘細胞における細胞死の回避に繋がる可能性があり、癌組織での異質な癌細胞が増加すると考えられた。組織内での癌分散は浸潤・播種や転移へと繋がっていく。また、巨核・多核の癌細胞は膵臓、卵巣、肺などの多臓器で散見され、癌予後と相関することが知られている。本課題により新たに見つけた分散モデルの解明を進めることで、従来とは異なる癌分散の抑制を目指した医療応用へと発展できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
通常癌細胞に加えて巨核・多核の癌細胞集団が分散する様子を生細胞観察により可視化できた。現在、分裂期の細胞とその周辺細胞の動き、さらに細胞集団へと波及する影響(歪み)に注目して解析を進めている。また、生体内での癌細胞と間質細胞の応答を明らかにするため、マウス組織におけるマウス癌細胞と間質細胞間の細胞間応答の解明に着手している。マウス癌細胞株B16(悪性黒色腫由来)が巨核・多核化後でも細胞死を回避することを新たに見つけ、マウス臓器に通常B16細胞を移植し、巨核・多核化した癌細胞を抽出後、培養した巨核・多核癌細胞の遺伝子発現を解析できる段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
巨核・多核癌細胞の培養上清により刺激された線維芽細胞では、サイトカインやケモカイン産生が増加していた。(癌組織で想定される)通常の癌細胞と巨核・多核癌細胞で構成されるモザイク型の癌細胞集団は、線維芽細胞を含む癌間質において細胞間接着の解除と移動が顕著である可能性を考えた。本課題ではこのメカニズムについても明らかにしていく。 B16細胞は悪性度が高いため、臓器移植から1週間ほどで病態が急変してしまう。解析や観察に必要なB16細胞数を確保するために、抽出後はシャーレ上での培養により増殖させていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
ターゲット因子に対する抗体を購入予定であったが、無料サンプル抗体の活用により計上額を大幅に減額することができた。 また、生体内での腫瘍形成の評価を購入したヌードマウス(ヒト癌細胞の皮下移植)を用いて進める予定であったが、繁殖させた野生型マウスへとマウス癌細胞を移植・評価することで安価に検討を進展できた。 令和5年度の残額について、マイクロアレイの検体数を増やすことで、より多様かつ正確な実験結果を得ることに活用する。
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