研究課題
膵癌は癌の中でもっとも予後不良な疾患の一つであり、5年生存率はわずか8%である。膵癌に対する有効な新規治療法の開発は緊急の課題であり、社会的要求度が高い。これまで手術切除標本を用いた研究が数多く行われ、莫大なゲノム解析やRNAや蛋白など網羅的なデータを得ることができているが、研究の対象は腫瘍組織の増殖を支持する間質細胞にも広がっている。本研究では、間質細胞からの代謝物供給、腫瘍細胞における代謝物利用について、Single Cell遺伝子発現解析や質量分析による関連遺伝子発現から解明を目指すものである。膵臓癌の間質相互作用について、膵癌細胞株SUIT-2単培養とCAF共培養に対してGEM投与、非投与の4群をSingle Cell遺伝子発現解析で比較したところ、共培養群腫瘍細胞の3つのクラスターで、細胞周期G2M/S比が高く、細胞分裂・DNA複製が活性していることが示唆され、CAFが治療抵抗性に寄与する可能性を示した。また、CAFについて、非充実型低分化腺癌胃癌の炎症性CAFとmyoblastic CAFのSingle Cell遺伝子発現解析による比較を行ったところ、炎症性CAFにおいて、免疫抑制機能関連遺伝子の発現が高値であり、充実型低分化腺癌胃癌の炎症性CAFよりも腫瘍促進やEMTに関連する遺伝子発現が有意に高値であることを明らかにし、免疫抑制環境の形成に重要な役割を果たしている可能性を示した。また、胃癌細胞の代謝に関するSingle Cell遺伝子発現解析での検討において、腫瘍促進関連遺伝子の発現と酢酸代謝亢進の関連を示唆する結果が得られており、今後、膵癌での検討を進める予定である。
3: やや遅れている
メタボロミクス解析に先行して、Single Cell解析による癌間質相互作用の解明を進めているため遅れている。
メタボロミクス解析は、得られる情報は多いが結果の解釈に苦慮することが多いため、Single cell RNA sequenceを先行して細胞単位での遺伝子発現情報での検討を行っている。腫瘍促進関連遺伝子の発現と酢酸代謝亢進の関連を示唆する結果が得られており、これらの結果を参考にしながら、今後メタボロミクス解析も並行して進めていく予定である。
研究計画に遅れを生じているため。次年度は引き続き測定用試薬、シングルセル受託解析に使用する予定である。
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Clinical and Translational Medicine
巻: 13 ページ: e1181
10.1002/ctm2.1181