研究課題
MYC異常がんにおける難治性機序を解明するため、今年度は以下の研究を実施した。まず昨年度実施した非ホジキンリンパ腫細胞株11株と卵巣がん細胞株3株のトランスクリプトーム解析の発現プロファイルデータを用いてMYC高発現細胞株と低発現細胞株とで層別化し、MYC発現の高低で特徴的な遺伝子発現signatureの抽出を実施した。その結果、リンパ腫ではMYC高発現細胞で有意に高い発現を示す遺伝子群41個、低い発現を示す遺伝子群75個、また卵巣がんではMYC高発現細胞株での有意に高い発現を示す遺伝子群102個、低い発現を示す遺伝子群31個を抽出することができた。エンリッチメント解析の結果、リンパ腫のsignatureは器官形成に関わる遺伝子セットと高い相関性があり、逆に免疫に関わる遺伝子セットと相関性が低かった。一方卵巣がんでは細胞運動に関わる遺伝子セットと高い相関性を示した。次にMYCの遺伝子増幅を有する卵巣がん細胞株と非増幅の細胞株においてナノポアシーケンサーを用いたロングリード全ゲノム解析を実施した。Nanomon SVによる構造異常解析を実施した結果、MYC増幅細胞株でいくつか共通した遺伝子のゲノム構造異常を見出すことができた。細胞株の数が少ないためさらに数を増やして絞り込む必要があるが、これらの領域はMYCの構造異常と何らかの関係性を持つ可能性が示唆された。また、共同研究にてEBウイルスをB細胞へ感染させるとIMPDH2遺伝子の発現が誘導され、核小体の肥大化に伴い細胞増殖や不死化が起こること、さらにMYCがIMPDH2遺伝子の発現を促進することを明らかにした。EBウイルス感染はリンパ腫の原因一つと考えられるため、MYCはEBウイルス関連性リンパ腫のごく初期段階にも重要な役割を果たしていることが示唆された(Sugimoto A et al, Microbiology Spectrum, 2024)。
3: やや遅れている
国際共同研究による長期の海外出張を行ったため、中断期間ができオルガノイドモデルを使用した実験を実施することが出来なかった。
まず卵巣がんのマウスオルガノイドモデルを使用した研究を実施する。標準治療薬であるカルボプラチンやパクリタクセルを投与後に生残するMRDモデルを確立しているため、このMRDとMYC発現制御との関係性をRNA-Seqやウエスタンブロット等により解析を進める。また、卵巣がんにおいては細胞株数を増やしてロングリードゲノム解析を実施し、ゲノム構造異常領域をさらに絞り込む。これらの解析結果からMYC制御遺伝子の発現抑制や導入実験を行い、同定した遺伝子の機能解析を実施する。さらに細胞株やマウモデルを用いた結果を基に可能であればリンパ腫及卵巣がんの臨床検体での検証を実施する。
国際共同研究による海外出張を行ったため、研究期間が短縮し少額の繰越金が生じた。
すべて 2024 2023 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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https://researchmap.jp/read0137364