研究課題
本研究においてゲノム解析(WES, WGS)、エピゲノム解析(ChIP-seq, DNA methylation)、トランスクリプトーム解析を含めた統合的なマルチオミックス解析を行っている。本研究ではがんのドライバー変異が見つかっていない肺がん症例(pan-negative肺がん症例と定義する)に注目して、研究を推進している。pan-negative肺がん症例に対して、まず最初にRegulatory elements、特にpromoter領域とenhancer領域に注目して変異解析(hotspot解析)、構造多型解析、mutational signature解析を行った。Promoter領域ではカルシウムシグナルに関わる遺伝子にhotspot変異が同定された。一方でenhancer領域に注目した解析ではアジア人の膀胱がんで見出されているADGRG6遺伝子のエンハンサー領域にて、既報と同じ変異が肺がんpan-negative症例でも見出された。膀胱がんだけでなく肺がんでもADGRG6が癌化に関与する可能性が示唆された。統合的マルチオミックス解析からNotch signalに関わるco-transcriptional factor近傍のエンハンサー活性の低下と遺伝子発現の低下を見出した。またエンハンサー活性の低下とゲノム変異の関連性が示唆された。我々が同定した上記co-transcriptional factorによって遺伝子発現が制御される遺伝子を相関解析から抽出し、肺がん正常検体との間で遺伝子発現を比較検討したところ、pan-negative症例との間で解析した15遺伝子全てで有意な発現上昇が明らかとなった。またそのうちの4つの遺伝子と予後との関連性明らかにした。現在はこれら4遺伝子が創薬ターゲットになる可能性があると考えており、引き続き詳細な解析を続けている。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要に記載したとおり、本研究におけるゲノム・エピゲノム・トランスクリプトームを含めた統合的マルチオミックス解析から、肺がんpan-negative症例において創薬ターゲットとなりうる複数の遺伝子を同定しており、順調に進展していると考えている。来年度以降はこれら遺伝子の役割に関してさらに詳細に検討し、がんの本態解明につなげる研究を予定している。
今後はpan-negative症例に付随する臨床情報を利用した解析を行い、臨床的意義を明らかにする予定である。またPOC (proof of concept)確立のため、必要に応じてwet実験も行う予定である。研究の進展とともに、得られた研究成果の社会的還元を念頭に、学会発表や国際誌に投稿することも今後の予定とする。
当初の研究計画に比べて研究が順調に進展しており、計画していた支出が抑えられたために次年度使用額が生じました。次年度の使用計画としましては、さらなる研究の進展に向けて、当初予定していた経費に利用する予定です。
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Briefings in Bioinformatics
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Experimental Biology and Oncology
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