研究課題/領域番号 |
22K07203
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
橋本 茂 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 准教授 (50311303)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | RNA結合タンパク質 / Arid5a / 間葉形質 / 免疫回避 / 転移 |
研究実績の概要 |
これまでに、RNA結合蛋白質Arid5aが間葉形質を示す膵癌・大腸癌サブタイプにおいてその発現が有意に亢進すること、微小環境の代謝リプログラムに関わる遺伝子やケモカイン遺伝子mRNAの安定化を介した発現促進により癌の免疫回避に関与することを明らかにした。本研究は、癌の原発部位及び転移過程におけるArid5aによる転写後mRNA安定化制御を介した間葉形質獲得と免疫抑制環境形成との連動性と多様性に着目し、それらの作用機序を解明することを目的とする。さらに、創傷治癒過程での可塑性誘導・終結における機能的役割との比較により、如何なる免疫制御の破綻が転移性癌の起源・多様化及び免疫抑制環境形成に繋がるのかに関しても検討を行う。 サイトカインIL-6及びTGF-beta刺激によりArid5aの発現亢進と共にEMT様の変化が誘導され、浸潤活性が促進することを膵管癌モデルマウス由来細胞KPCで確認している。KPC細胞を用い、IL-6の下流でArid5a遺伝子発現並びに免疫回避に関わる候補転写因子の検討を行った結果、STAT3が有意に関与していることを見出した。STAT3は、膵癌の発生並びに間葉形質獲得、間質の増生・線維化亢進、及び、TAMやMDSCの活性化を介したPD-L1、IL-10、TGF-betaなどの発現誘導による免疫抑制的な微小環境形成に関与することなどが報告されている。従って、膵癌の原発部位において、IL-6/STAT3シグナルを介したArid5aの発現亢進が、膵癌の間葉形質獲得と免疫回避に関与することが示された。また、尾静注転移モデルによる検討において、Arid5aが転移プロセスに関わり、さらに転移過程における免疫回避に関与することを示唆する知見を得た。転移プロセスにおいても同様のシグナルが関与しているか検討を行なっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究室を異動したことにより、本研究の準備に時間がかかり、予定の研究が遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
Arid5aが原発部位及び転移部位においてどのような炎症関連の転写ネットワークと連動して標的遺伝子を制御するのか解析を進める。今回、IL-6/STAT3シグナルが原発部位でのArid5aの発現亢進による間葉形質獲得と免疫回避に関与することを見出したことから、転移部位での関連を検討する。さらに、Arid5aの標的分子の探索を進め、間葉形質獲得と免疫回避の作用機序を解析する。また、翻訳開始複合体との関連性についても検討を行い、Arid5aがmRNA安定化以外の翻訳開始反応における制御の可能性についても解析を進める。 古来『癌の起源は慢性炎症部位にある』とされてきたことから、IL6-Ampに伴う慢性炎症のメカニズムとの関連にも着目した解析を進める予定である。抗IL-6受容体抗体薬(Tocilizumab)は、既に実臨床においてIL-6の過剰産生に伴う慢性関節性リウマチ炎症疾患に対して顕著な奏功性がある。一方、IL-6の亢進と膵癌の悪性化との関連が基礎・臨床研究から示されているが、これまでにTocilizumab単剤による効果は見られていない。IL-6が多様な生命機能への関与(T細胞活性化等)が要因として考えられる。従って、間葉系膵癌においてIL-6シグナル伝達の下流で活性化され、癌の浸潤・転移性獲得及び免疫回避に特化したArid5aの機能的役割を解明することにより、慢性炎症との関連、さらに分子機序に基づいた、膵癌の新規バイオマーカーによる診断及び新規治療戦略の開発について検討を行う。
|