研究課題
癌に関連した死亡の大部分は、転移によるものである。その本質は、癌のintrinsicな可塑性と共にextrinsicな腫瘍微小環境の多様性との連動性にある。癌の可塑性の分子機序として、上皮-間葉形質転換 (EMT)があげられる。EMTは上皮か間葉かのbinaryな変換ではなく両形質を含む可塑性に富んだ一過性の間葉形質維持状態として捉えられる。さらに、様々な癌種において、間葉形質と免疫回避との関連性が報告されている。本研究は、癌の原発部位及び転移過程におけるRNA結合蛋白質Arid5aによる転写後mRNA安定化制御を介した間葉形質獲得と免疫抑制環境形成との連動性と多様性に着目し、それらの作用機序を解明することを目的とする。さらに、創傷治癒過程での可塑性誘導・終結における機能的役割との比較により、如何なる免疫制御の破綻が転移性癌の起源・多様化及び免疫抑制環境形成に繋がるのかに関しても検討を行う。当該研究期間において、転移過程における間葉形質獲得と免疫抑制環境形成に関するArid5aの機能解析を進めた。EGFP及びLuciferaseを恒常的に発現させる為、当該遺伝子を同時に発現させるレンチウイルスベクターを構築し、野生型並びにArid5a遺伝子を欠損させたマウス膵癌細胞KPC及びマウス乳癌細胞4T1にinfectionし、目的の細胞株を樹立した。初めに、当該細胞群を尾静注転移モデルでの転移形成をIVIS in vivo imagingにより確認後、転移部位からsortingにより回収した野生型及びArid5a欠損細胞について、RNAseq.解析を進め、癌種間並びに両細胞間で発現の異なる遺伝子群を同定した。当該候補遺伝子に関してCLIP-RNAseq.解析によりArid5aが標的とする候補mRNAsを絞り込んだ。現在、それらの遺伝子群に関する機能解析を進めている。
3: やや遅れている
所属する大学院生らに対する教員としての学位論文に必要な実験及び論文投稿などの業務に予定以上の時間を取られた為、予定の研究が遅れている。
Arid5aが原発部位及び転移部位においてどのような炎症関連の転写ネットワークと連動して標的遺伝子を制御するのか解析を進める。今回、IL-6/STAT3シグナルが原発部位でのArid5aの発現亢進による間葉形質獲得と免疫回避に関与することを見出したことから、転移部位での関連を検討する。さらに、Arid5aの標的分子の探索を進め、間葉形質獲得と免疫回避の作用機序を解析する。また、翻訳開始複合体との関連性についても検討を行い、Arid5aがmRNA安定化以外の翻訳開始反応における制御の可能性についても解析を進める。申請者は、野生型マウスを用いたin vivo wound healingの解析からArid5aが損傷部の上皮細胞及び集積したマクロファージにおいて定常状態に比較して顕著に発現亢進することを観察している。野生型及びArid5a欠損マウスを用いて、上皮組織損傷初期、浸潤、再上皮化、及び炎症応答終結の過程における、集積する免疫細胞群の種類、産生される炎症性サイトカイン、上皮細胞のEMT及びMET profilingに関してFACS、ELISA、RNAseq.解析等により経時的変化を調べる。また、前年度に同定した候補分子群の発現パターやシグナルネットワーク活性化との関連、さらに、競合分子Regnase1が候補分子群のmRNA分解に関与するか否かについても比較検討を進め、どのような制御破綻が間葉系癌細胞における免疫回避に繋がるのか明らかにする。
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