研究課題
放射線や抗がん剤で誘導されたDNAの損傷は、その修復エラーによって突然変異や染色体構造異常などを誘導する。それによる遺伝情報の改変は、がんや白血病など悪性腫瘍の発症に繋がることが知られている。我々は、DNA二本鎖切断修復に関連するリン酸化酵素ATM及び複製フォーク障害に関わるリン酸化酵素ATRが転写、複製、修復などのDNA代謝を制御するクロマチンリモデリング複合体であるINO80複合体の構成因子ARP8をリン酸化することを報告している。培養細胞を用いた研究でARP8のリン酸化は抗がん剤エトポシドによる二次性白血病の疾患特異的染色体転座を抑制することや複製フォーク障害の修復に関与していることが明らかになっている。細胞レベルで複製ストレス応答機構におけるARP8リン酸化の意義をさらに明らかにするとともに、放射線照射または抗がん剤など化合物による発がん実験やがん細胞の染色体不安定性への関与について個体レベルでの解明が必要と考えた。そこで、同研究所に所属する研究者の協力によりCRISPR-Cas9によるゲノム編集を用いた技術でARP8のリン酸化欠損マウスの作製を行なった。昨年度に作製された一塩基置換されたC57BL/6系統のARP8のリン酸化欠損マウスを他マウス系統と戻し交配(バッククロス)を行なっている。また、樹立したリン酸欠損の安定性発現細胞培養細胞株を用いて、ARP8 と相互作用し、複製フォーク障害の修復に関与する因子を同定するためのタンパク質質量分析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
培養細胞を用いた実験を行なった他、CRISPR-Cas9によるゲノム編集で作製されたリン酸化欠損マウスを他マウス系統のF5を得られるため、戻し交配(バッククロス)を行っている.
タンパク質質量分析結果を解析するとともに、得られたF5のヘテロマウスを繁殖し、一定数のホモリン酸化欠損マウスが得られた後、対照となる野生型マウスとともにEtposideやHydroxyureaの投与及び放射線照射を行い、薬剤や放射線に対する感受性及び発がん実験を行う予定である。
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J Biochem
巻: 173 ページ: 375-382
10.1093/jb/mvad001.