研究実績の概要 |
細胞増殖制御は様々な形で解析が行われたが, 細胞接触や機械的刺激による増殖制御につ いては, まだ不明な点も多い. Hippo 経路はショウジョウバエで発見された接触抑制の鍵となる経路で, ほ乳類にも保存され, 器官のサイズや制御, がん抑制経路として認識されている.Hippo 経路の抑制状態は癌症例で高頻度に認められ, さらに, 上皮間葉転換を誘導し浸潤・転移を高め, 予後の増悪との深い関連が示されており, がん治療において重要な経路となると考えられている. 我々は, ヒト胃癌細胞とトロンビンの関連について研究を続け, トロンビン受容体であるPAR1活性が, Hippo 経路の抑制とそれに伴う浸潤・転移の増悪を示した. そこで,ヒト胃癌細胞でのHippo 経路の下流に位置する転写因子YAP,TAZの不活化とPAR1との関係を詳細に解析し, PAR1拮抗剤でのHippo 経路の制御と期待される効果,およびその効能を適切に評価し,PAR1を介したHippo 経路を標的とする胃がん治療の実現への方策を探求することを目的とした. 臨床検体を用いて, PAR1とHippo経路の下流転写因子であるYAPの発現を免疫染色法を用いて評価した. PAR1発現の症例においては、脱リン酸化されたYAPの核内染色発現症例と相関性があることを確認した. また, YAP/TAZ複合体のリン酸化の評価をキナーゼアッセイを用いて行うと, PAR1強発現の胃癌細胞株を低濃度トロンビン添付の培養液にて15分培養後の検体では脱リン酸化が促進されていることが確認できた. 今後は, さらにトロンビン刺激における時間条件に伴うYAP/TAZ複合体の脱リン酸化の程度の評価と, YAPの局在の評価を行う予定である.
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