研究課題/領域番号 |
22K07277
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
百瀬 文康 三重大学, 医学系研究科, 産学官連携講座助教 (20798326)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ワクチン / がん免疫療法 / CD8+T細胞 |
研究実績の概要 |
近年、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)や遺伝子改変T細胞輸注療法(CAR-T/TCR-T)、ネオアンチゲンを標的とした個別化がんワクチン等の開発によりがん治療は大きく進展した。一方でこれらの治療だけでは救えない命も多い。がん免疫療法は多岐に渡るが、がん克服にはこれら多領域の革新的な技術を集中した複合的な治療が不可欠で社会的に求められている。研究代表者はがんワクチンの開発過程において、ヒアルロン酸誘導体を基盤としたワクチンが従来型ワクチンと比べ、迅速かつ高効率にリンパ節に移行し、抗腫瘍効果を発揮することを見出した。さらに、本ワクチンをICI治療抵抗性の腫瘍移植マウスにTCR-T細胞と投与した結果、本ワクチンが腫瘍抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL)を強力に誘導し、腫瘍を消失させ、再発を抑えることが明らかとなった。これらの結果より、本ワクチンが強力にエフェクター/メモリーCD8+T細胞を誘導しICI治療抵抗性腫瘍を治癒、再発予防できる可能性が示唆された。本研究課題では、本ワクチンを用いたがん免疫療法の抗腫瘍作用と再発抑制機序について解明する。 初年度は本治療の汎用性を確認するため、新たに転移性メラノーマ細胞株B16F10移植マウスを用いて同様の検討を行い、本治療が転移性メラノーマに対しても治療効果を発揮することが明らかとなった。また、奏効が認められた個体の末梢血中には、腫瘍抗原特異的エフェクター/メモリーCD8+T細胞が持続的に認められ、さらに本ワクチンの追加接種により同細胞が顕著に増大し、同メモリーCD8+T細胞が腫瘍の再発を抑えている可能性が示唆された。そこで本効果の抗腫瘍エフェクター細胞や分子を特定するため、抗CD8抗体や抗IFN-γ抗体を投与し同様の検討を行った結果、抗腫瘍効果は認められず、本作用にはCD8+T細胞やIFN-γが直接関与していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、転移性メラノーマB16F10に対する本治療の抗腫瘍効果や免疫応答について検討し、ICI治療抵抗性腫瘍同様に、ヒアルロン酸誘導体を基盤としたがんワクチンが腫瘍抗原特異的細胞傷害性CD8+T細胞(CTL)を強力に誘導し、転移性メラノーマを退縮し得ることを示した。また、本治療により奏効が認められた個体の末梢血中には輸注TCR-T細胞が持続的に存在し、本ワクチンの追加接種により、同CD8+T細胞が顕著に増大し、同メモリーCD8+T細胞が腫瘍の再発を抑えている可能性を示した。さらに、中和抗体を用いて本治療の抗腫瘍エフェクター細胞や作用分子を検討し、本治療効果にはCD8+T細胞やIFN-γが直接関与していることを特定した。これらの知見は、ヒアルロン酸誘導体を基盤としたがんワクチンとTCR-T細胞を用いたがん免疫療法が、ICI治療抵抗性腫瘍や転移性メラノーマのような治療困難ながんに対し、CD8+T細胞を介して治療効果を発揮し、汎用性が高い可能性を示した。現在さらに本治療の分子レベルにおける作用機構の解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた研究成果を基にさらに分子レベルでの解析を行うため、今後は本ワクチン接種後に腫瘍組織及び所属リンパ節を採取し、シングルセル遺伝子発現解析を行い、腫瘍組織における細胞集団のプロファイリングと空間的遺伝子発現の視覚化、クラスター特性解析や発現量の差分解析により、持続的な抗腫瘍作用と再発抑制分子の探索を行う。また、抗原提示細胞によるワクチン抗原の取り込みと抗原提示機構に着目し、各抗原提示細胞に発現する各種レセプターと同細胞によるワクチン抗原の取り込み率や活性化、CD8+T細胞増殖への影響について検討し、本ワクチンの抗原提示機構の解明と抗原提示細胞を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の為の消耗品を購入出来る金額ではなかった為、次年度に持ち越し、次年度の科研費と合わせて使用する予定である。
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