研究課題
ヒトは、他人も自分と同じように、意図、信念、欲求といった“心”をもつ存在である、と 認識できる。この認知能力は、「心の理論」と 呼ばれ、ヒトが高度な社会を形成するために必須であると考えられている。ヒト以外の動物が、心の理論をもつことについては、主に誤信念課題と呼ばれるテストを使って検証が続けられてきたが、否定的な結果が蓄積されてきた。最近の申請者らの研究で、自発的な誤信念課題を用いて検証した結果、サルにも「心の理論」様の機能が存在することがわかり、神経基盤の解明に大きな可能性が拓かれた。本研究課題では、申請者らがこれまでに確立した皮質脳波法、刺入電極法を用いて、複数の脳領野から構成される心の理論を担う神経ネットワークの動作原理の解明に取り組んでいる。今年度は、刺入電極法については新規にデザインした頭部チャンバー及び電極保持マニピュレーターシステムの検討を行った。新システムを用いて内側前頭前野から単一細胞外記録及び局所電場電位を計測した。複数箇所から記録を取得してマッピングを行い視覚応答が得られる部位を同定した。皮質脳波法については、独自にデザインしたパリレンECoG電極を作成した。誤信念課題の前提となる注視課題の訓練が終了した。さらに、DREADDによる神経抑制の評価系として、誤信念課題に加えて、ケージ内の自然行動を検討した。そのための行動観察システムを構築した。このシステムを用いて、対照実験としてDREADD導入前の行動を記録した。解剖学的な標識を改善する目的でDREADD法のための新たなベクターを作成した。さらに心の理論の発達の神経メカニズムを検討するために、共同研究による実験を開始した。
2: おおむね順調に進展している
サル行動実験においては注視課題の訓練が順調に進み、新たな行動評価系の検討も一定程度進んだ。また、神経活動記録については、新たな神経活動記録法の構築が進み、従来法の準備も順調に進んだためおおむね順調に進展していると考える。
誤信念課題の前提となる注視課題の訓練が終了したため、誤信念課題の訓練、評価を進める。また術前MRI画像をもとに電極留置の手術計画を作成し、留置手術を実施する。内側前頭前野と側頭溝周辺に皮質脳波電極を留置し、誤信念課題遂行中の神経活動を記録する。その後、内側前頭前野から刺入型高密度多点電極を用いて、神経活動記録を行う。新たに作成したHAタグ付きの逆行性レンチベクターを内側前頭前野に導入する。誤思念課題遂行中の個体からの記録を行う予定である。
電極留置手術を次年度に行うことになったため、そのための手術消耗品等に次年度使用額が生じた。次年度にこれらの費用と翌年度分として請求した助成金と合わせて、電極の留置、神経記録を進める予定である。
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Nat Commun.
巻: 14(1):971. ページ: 1-11
10.1038/s41467-023-36642-6.