研究課題
霊長類の自然行動を客観的かつ大規模に定量化する技術の確立を目標として、集団で生活する霊長類動物を個体識別しながら、各個体の3次元姿勢推定を実現するシステムを構築した。このシステムでは、複数台ビデオカメラによる記録映像から姿勢推定を行う。集団飼育において97%での個体認識精度を達成した。このシステムでは、目や鼻、肘の位置など霊長類動物の行動解析に有用な18点の特徴点を3次元的に推定することが可能である。最も精度の良い特徴点では、平均5㎜の誤差、最も誤差の大きい点でも15 ㎜という精度に到達した。このような高い水準を達成するために、解析パイプラインでは複数の深層学習ニューラルネットワークに基づく画像解析を取り入れている。このネットワークの学習のため、マーモセットにおいては56000体の姿勢教師データを作成した。これらの学習済みモデルや訓練用データセットは、他機関での解析に用いる際にも有用な研究基盤となる。これらの技術をさらに発展させて、自閉症と関連の深い認知機能を調べる新規行動課題を確立した。人は他者の直接観察することのできない心の状態を推定して、それに基づき自己の行動を調整している。このような社会的認知機能は円滑な社会生活をおくる上で欠かすことのできない脳機能であり、その破綻は社会性に異常にきたす疾患と関連が深いと考えられている。しかし、こういった機能を動物モデルで調べる行動課題が未発達であることから、その神経機構の詳細は未解明である。そこで姿勢推定AIと状態推定AIを用いることで、直接観測できない他者の内的状態に応じて自己の行動を調整する社会認知機能を霊長類で検証する行動解析系を開発した。そして、この系をもちいることで、前頭前野内側部の機能阻害が他者の内的状態に応じた行動調整を消失させることを示す予備的な知見を得た。
2: おおむね順調に進展している
直接観測できない他者の内的状態に応じて自己の行動を調整する社会認知機能を霊長類で検証する行動解析系が完成し、複数個体で再現性がとれた。これらの成果を論文としてまとめ、プレプリントサーバーに公開した。現在、専門誌において査読中である。また、介入実験により、これらの機能に関連の深い皮質領域を特定するための実験が進行している。
現在、留置カニューレを介した薬理注入実験において他者の内的状態に応じて自己の行動を調整する社会認知機能に因果的に影響のある皮質領域を特定しつつある。現在は1個体で検証が終了した段階なので、他の個体で再現性がとれるか確認を進める。
ミーティングをオンラインで完了することが多く旅費の支出が少なかったため。介入実験のための消耗品として有効に使用する。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (2件) (うちオープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
bioRxiv
巻: - ページ: 1, 56
10.1101/2023.09.13.556332
巻: - ページ: 1, 42
10.1101/2023.10.16.561623