研究課題/領域番号 |
22K07331
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
河野 憲二 獨協医科大学, 医学部, 特任教授 (40134530)
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研究分担者 |
菅生 康子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究グループ長 (40357257)
松田 圭司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (50358024)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 神経科学 |
研究実績の概要 |
私たちは、絶えず眼を動かし、空間内の様々な位置にある対象物を網膜の内で感度の高い中心窩に捉らえ、知覚している。特に環境内に人がいると、人の顔に視線が向かうことはよく知られていて、周辺視野で認めた顔に視線を向け、解像度の高い中心窩で捉えなおすことで、ヒトが社会生活を送る上で重要な他者の表情や個体の特定など顔の持つ情報の詳細な認識が可能となる。自然な視覚環境下で視線を向けた時、眼球運動と連動して網膜上で動く顔画像を視空間内に定位させ、同定/認知するための神経機構を解明する。 令和4年度に、固視課題及びサッケード課題を訓練したサルの下側頭葉の2つの領域(TEO野とTE野)に留置した多点電極から記録されたニューロン活動で観察された「顔反応性ニューロン」の視覚刺激に対する反応が、単純な固視課題中とサッケード運動終了後の再固視直後では異なることを観察した。しかしながら、留置した多点電極の位置などの関係で、一頭のサルではTEO野、もう一頭のサルではTE野から「顔反応性ニューロン」が記録され、解析することとなった。 令和5年度は、もう一頭の新たなサルに慢性的に取り付けた記録用のチェンバーから電極を刺入し、TE野から単一ニューロン活動を記録した。サルに固視課題及びサッケード課題を行わせて「顔反応性ニューロン」の視覚刺激に対する反応を調べた。このサルのTE野の「顔反応性ニューロン」でも、これまでの結果と同様に、単純な固視とサッケード運動終了後の再固視では異なる反応が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究では、サルの下側頭葉に留置した多点電極からニューロン活動を記録し、顔刺激に反応するニューロンが記録される電極を特定し、それぞれのニューロ ンの反応特性を調べてきている。 令和5年度は、前年度に観察された単純な固視とサッケード運動終了後の再固視で「顔反応性ニューロン」の視覚刺激に対する反応が異なるという現象が、異なるサルの下側頭葉から記録したニューロンでも観察されることを確認することができた。この結果は、サッケード運動が「顔反応性ニューロン」に及ぼす効果に、個体を越えた再現性があることを示すもので、研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度までにサッケード課題で、中心窩で捉えられた顔刺激に対する反応を比較し、単純な固視とサッケード運動終了後の再固視で「顔反応性ニューロン」の視覚刺激に対する反応が異なることが観察された。また、TEO野ニューロンとTE野ニューロンの反応潜時に違いがあることを観察していて、これらの現象には、サッケード前に記憶された顔情報がサッケードにより惹起される反応(memory remapping)の関与が期待される。 今後の研究では、個々の「顔反応性ニューロン」の反応の定性的な記載、比較だけでなく、TEO野とTE野それぞれのニューロン群のポピュレーションとしての特性を解析していく。また、もう一頭の新たなサルのTEO野とTE野に多点電極を留置し、サッケード前に記憶された顔情報がサッケードにより惹起される反応の詳細な解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和5年度までのニューロン活動の解析では、TEO野は1頭、TE野は2頭とそれぞれ異なるサルから記録されたデータを用いている。論文作成には、TEO野、TE野、それぞれ複数のサルから同じ課題を使って記録されたデータを用いることが望ましい。また、課題の違いなどからTEO野、TE野のニューロンについてポピュレーションとしての解析、比較が困難であった。次年度にはこの予算を使用し、新たなサルを用いて同じ課題でのニューロン活動の記録と解析を行うことで、問題点を克服し、論文作成の準備を進めていく計画である。
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