• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2023 年度 実施状況報告書

自閉症スペクトラム障害動物モデルを用いた睡眠障害分子機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 22K07346
研究機関福井大学

研究代表者

辻 隆宏  福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 助教 (40787389)

研究分担者 辻 知陽  金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 特任助教 (00523490)
東田 陽博  金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 協力研究員 (30093066)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード自閉症スペクトラム障害(ASD) / ASDモデルマウス / 概日リズム障害 / jet lag paradigm / L-カルノシン
研究実績の概要

自閉症スペクトラム症候群(ASD)は社会性障害以外にも睡眠障害を伴うことが多く、本人だけでなく家族も巻き込んだ問題となっています。環境要因のASDモデルマウスとしてバルプロ酸胎内暴露マウス(以下、VPAマウス)とCD157ノックアウトマウスを使用して、概日リズムを輪回し行動により計測した。VPAマウスは夜間の活動量がコントロールより増加していた。さらに、12時間明暗周期を8時間前進・後退させてジェットラグパラダイムを行ったところ、新しい明暗リズムにどちらのマウスも速やかに同期していた。ASDの生活を困難にする睡眠障害は、光により概日リズムが同期しやすくなることにより、夜間に光が入り奇異的に概日リズムが乱されることが一つの要因になることを示唆する。
一方、ASD児では血中L-カルノシンが低下し、L-カルノシンの経口補給により改善する可能性が指摘されている。これまでCD157ノックアウトマウスでL-カルノシンの経口補給が社会性障害をオキシトシンの分泌を促進することにより改善することを報告した(2022, Nutrients)。L-カルノシンの経口投与はVPAマウスの社会性を改善させることができた。L-カルノシンはCD157ノックアウトマウスへの急性ストレスに応答する血中コルチゾールの上昇と不安様行動を軽減していた。L-カルノシンの栄養補給は、ASD児の社会性障害と急性ストレスへの反応や不安を軽減する可能性がある。
本研究成果はASD児の睡眠障害の分子機序の解明とASD児のL-カルノシンの栄養補給による治療可能性につながる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

本研究では、ASD児の睡眠障害の分子機序を明らかにするため、複数のASDモデルマウスとメラノプシン陽性内在性光感受性網膜神経節細胞におけるバソプレシンシグナルの役割を証明することを目指している。そこで、輪回し行動による概日リズムの測定や、光周期を変えて行動量を測定するシステムを立ち上げ、いくつかのASDモデルマウスで新しい光同周期への同期の促進を見つけた。しかし、中枢の視交叉上核の時計遺伝子やc-fos活性の解析は時間がなくできなかった。
一方、網膜神経節細胞から視交叉上核へバソプレシン(AVP)が分泌される経路の生理的な役割については、AVP細胞にCreリコンビナーゼが発現するマウスを使用し、以下の方法により網膜神経節細胞特異的に変異させようとした(1、アデノ随伴ウイルスを用いる方法 2、ROSA-iDTRマウスと交配する方法)。
1の方法では、使用したウイルスの網膜への発現効率が悪く、実験を進めることができなかった。2の方法では、ジフテリア毒素の全身投与によりバソプレシンの分泌が抑制され、利尿効果を確認できた(論文準備中)。一方、ジフテリア毒素は網膜への毒性が高いため、ほかの網膜細胞への毒性がなく、AVP細胞だけを破壊する条件の至適化を検討している。

今後の研究の推進方策

ASDモデルマウスの輪回し行動により、ジェットラグパラダイムを行うと速やかに新しい光周期に同期することを発見した。輪回し行動のケージは数が限定されているため、他のASDモデルマウスについても解析を進めている。さらに、視交叉上核のc-fosや時計遺伝子の発現変化を免疫組織科学により解析する。同様の表現形を示すマウスとしてバソプレシン受容体ノックアウトマウス(Science, 2013)やBmal1ノックアウトマウス(JCI Insight, 2019)が報告されている。これらのマウスにおいてもバソプレシンやBmal1について着目してASDモデルマウスのこの表現型の分子機序について研究をすすめる。
一方、網膜神経節細胞特異的なバソプレシン神経を操作するマウスの作成については予備実験の段階で苦労してる。その中で、バソプレシン特異的にCre recombinaseを発現するマウスとCre recombinase特異的にジフテリア毒素受容体を発現するマウスを交配し、ジフテリア毒素の全身投与によりバソプレシン細胞の発現が低下したマウスを作成し、尿量が増加することを発見した。この表現型はバソプレシンの内分泌が低下していることを示す。今後、このマウスに眼球内へジフテリア毒素を注入し、網膜特異的なバソプレシン細胞のアブレーションを行ったマウスを作成することを計画している。

次年度使用額が生じた理由

本年度使用額は、網膜神経節細胞特異的なバソプレシン細胞の操作に使用する試薬や消耗品、マウスの飼育費などに使用する予定であったが、予備実験で当該細胞のバソプレシンの発現低下を確認することができなかった。副産物として、本研究で得られたL-カルノシンのCD157ノックアウトマウスへの急性ストレスと不安行動への効果の研究、およびバソプレシン細胞の組織特異的なジフテリア毒素によるアブレーションが可能なマウスの確立についての論文を発表する予定であったが、本年度には間に合わなかった。次年度にこれらの成果を論文として報告する予定であり、その論文掲載料に使用する予定である。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2023

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] Optic Nerve Injury Enhanced Mitochondrial Fission and Increased Mitochondrial Density without Altering the Uniform Mitochondrial Distribution in the Unmyelinated Axons of Retinal Ganglion Cells in a Mouse Model2023

    • 著者名/発表者名
      Tsuji Takahiro、Murase Tomoya、Konishi Yoshiyuki、Inatani Masaru
    • 雑誌名

      International Journal of Molecular Sciences

      巻: 24 ページ: 4356~4356

    • DOI

      10.3390/ijms24054356

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] :第2世代のバルプロ酸胎内暴露自閉症モデルマウスの小児期における社会的 コミュニケーションと自発運動異常は早期に発症する2023

    • 著者名/発表者名
      辻 隆宏
    • 学会等名
      第64回日本神経病理学会総会学術研究会 /第66回日本神経化学会大会 合同大会
  • [学会発表] Optic nerve injury increased mitochondrial density without altering the uniform distribution in the axon of retinal ganglion cells in mice2023

    • 著者名/発表者名
      Takahiro Tsuji
    • 学会等名
      he 130th Annual Meeting of the Korean Ophthalmological Society in conjunction with the 16th Joint Meeting of Korea-China-Japan Ophthalmologists.
    • 国際学会
  • [学会発表] 帯状疱疹後に発症した外眼筋麻痺に対し低照射パルス療法が有効であった症例2023

    • 著者名/発表者名
      辻 隆宏
    • 学会等名
      第61回日本神経眼科学会総会

URL: 

公開日: 2024-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi