研究課題/領域番号 |
22K07354
|
研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
瀬野 晋一郎 杏林大学, 保健学部, 講師 (70439199)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | かゆみ / 電気刺激 / 電流知覚閾値 / かゆみ知覚閾値 / VAS / 痛み |
研究実績の概要 |
慢性的なかゆみは、睡眠、仕事、就学などQOLを著しく低下させ、社会的に大きな損失を及ぼす可能性がある。そのため、かゆみの症状や特徴を正確に診断・評価することは極めて重要である。しかし、既存の評価法は問診や視覚的アナログスケール(Visual Analog Scale、 VAS)など主観に委ねられるものが多く、客観的評価は存在しない。そこで、本研究の目的はかゆみを客観的かつ定量的に提示可能な評価法と測定システムを確立することである。 測定システムの開発に向けて、今年度は最適な電気刺激パターンの選別について検討した。神経系のうち、一次感覚ニューロン(Aβ線維、Aδ線維、C線維)は正弦波電流刺激に発火特性を有しており、本研究は過去に開発した電気刺激装置を用いて13種類の正弦波刺激(周波数帯域1~4000 Hz)で検証した。被験者15名の左手首内側へ電気刺激を経皮的に加え、電気刺激に対する知覚感度(Current Perception Threshold: CPT)を測定したところ、CPTは周波数の増大と共に上昇する傾向が観察され、従来の研究報告と一致した。 次に、同部位へCPTの1.2倍量、1.4倍量、1.6倍量でそれぞれ刺激を行い、このときに誘発される感覚(かゆみ、痛み)の大きさをVASで評価した。実験の結果、2~100 Hzの周波数帯域でかゆみは知覚されやすく、これはかゆみの情報伝達に関わる無髄C線維が5Hz付近の低周波刺激で興奮しやすい点と合致している。一方、5Hz以下の刺激では負荷増大に伴い痛みも大きくなり、C線維がかゆみだけでなく、痛みの情報伝達にも関与するため、その結果が反映されたと考えられる。以上より、かゆみ誘発には20~100Hz付近の周波数帯域が最適な刺激となる可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は電気刺激の応用的手法によりかゆみ感覚を客観的かつ定量的に評価することを目的とする。今年度は被験者15名を対象に13種類の正弦波刺激(周波数帯域1~4000 Hz)を用いて生体計測を行い、かゆみの誘発は20~100Hz付近の周波数帯域が最も良好な刺激条件であることを確認した。このような結果より、評価システムの主要部にあたる電気刺激の特性を概ね把握できたと考えている。 一方、被験者が少なかったこともあり、性別、年齢、体脂肪率など生体特性に依存した電気刺激の知覚感度(CPT)に関する詳細な分析はできなかった。また、本研究で使用した電気刺激装置は仕様の関係上、かゆみの知覚に要する電流値(かゆみ知覚閾値:Itch Perception Threshold, IPT)と痛みの知覚に要する電流値(疼痛知覚閾値:Pain Perception Threshold, PPT)をそれぞれ計測できなかった。しかし、実験結果に基づいて考察すると、大多数の健常人においてIPTはCPTの1.6倍量より小さいこと、PPTはCPTの1.6倍量あるいはそれ以上となることをそれぞれ予測できる。次年度以降は、IPTとPPTを計測可能な測定システムの改良に取り組み、CPTに対するIPTおよびPPTの関係性を検討したい。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は(1)評価システムの改良、(2)かゆみ指標と主観的評価の分析、(3)かゆみに対する反射的行動の解析に取り組むことを計画している。 本年度の実験結果より、かゆみは20~100 Hzの正弦波刺激に対して誘発されやすい可能性が示唆されたため、次年度はこれらの刺激条件を利用して3つの電流値(CPT、IPT、PPT)を計測可能なシステムの改良に取り組むことを計画している。 評価システムの改良後、2つの測定値(CPTとIPT)を用いたかゆみの定量的評価指標を考案する。電気刺激に対する知覚感度は生体特性(性別、年齢、体脂肪率など)や刺激条件(波形、周波数、電極サイズなど)で変化するため、考案する評価法ではこれらの影響を無視できるようにCPTを基準とした指標の提案を計画している。また、本法のかゆみ指標と従来法の主観的評価の間に良好な関係性が認められるか分析する。 かゆみを知覚すると、引っ掻く、叩くといった掻破行動により不快な症状を軽減や緩和させ、一時的に欲求を満たす。この反射的動作はかゆみに対する主観的要素を反映すると考えており、次年度は指先に加速度などのセンサモジュールを装着し、掻痒時の動作解析を検討している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は測定システムの開発に際して、所属研究グループで所有する刺激装置や消耗品などを一部使用して基礎データの蓄積と分析を検討したため新たな物品や備品を購入しなかった。本研究は概ね計画通りに進行していると考えており、実験の結果、次年度はシステムの改良が必要なため、今年度の未使用分を割り当てる予定である。また、COVID-19パンデミックの影響で世界中に半導体不足が生じ、購入予定のセンサモジュールが入荷しない状況が続いており、支給された交付金を期限内に使用できなかったことも使用額に差が生じた要因である。 今年度の未使用金は、年度末に購入・納期された未処理の消耗品に割り当てて執行すると共に、残りの交付金については測定システムの改良に関わる電子部品等の購入、研究発表や論文の作成に必要な費用として一部割り当てることを計画している。
|