研究課題/領域番号 |
22K07364
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
及川 尚人 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 助教 (00583585)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | プレセニリン / NPC1 / コレステロール |
研究実績の概要 |
本研究においては、アルツハイマー病形成と密接な関係のあるプレセニリン(PS)の機能障害が神経細胞のコレステロール代謝に及ぼす影響について、ヒトiPS細胞由来神経細胞を用いて検討する。 当該年度は本研究で用いるヒトiPS細胞及びそれ由来の神経細胞の培養系、PS1をウイルス感染により欠失させるPS1ノックアウト法の導入と、PSが活性中心サブユニットとして機能する膜タンパク質分解酵素であるγセクレターゼの種々阻害剤の有効濃度の検討を行った。結果として、Feeder-freeでのiPS細胞培養と、それからの神経細胞の分化誘導が可能となった。PS1をノックアウトするためのウイルス産生系も構築され、種々γセクレターゼの阻害剤の有効濃度も確認した。また、γセクレターゼ阻害剤処理により、細胞内コレステロール輸送体であるNPC1の発現が低下することが見出された。NPC1の発現低下は神経変性疾患であるニーマンピック病C型の単一原因であることから、NPC1機能消失の薬剤モデルとして、NPC1阻害剤のヒトiPS細胞由来神経細胞への影響を検討した。その結果、濃度依存的で且つ培養日数依存的な神経細胞変性が観察された。 PS並びにγセクレターゼの機能障害に伴い、神経変性並びに神経細胞死が生じることが報告されているが、その分子機序については不明な部分が多い。当該年度においてはγセクレターゼの機能障害に伴い、神経変性の原因となるNPC1の低下がヒト神経細胞で確認されたが、この事は、アルツハイマー病で指摘されているPS或いはγセクレターゼの機能障害が、NPC1の低下を介して神経変性を引き起こすという、新たな病態経路が存在する可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
PS1のノックアウト効率の最大化のため、また、より成熟した神経細胞の取得のための長期培養に関して、安定的に健全な成熟神経細胞を取得する方法が確立できていない。また、PS1ノックアウト用ウイルスの神経細胞への感染が充分ではなく、PS1ノックアウトの最大効率化が達成できていない。
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今後の研究の推進方策 |
長期培養の問題に関しては播種する細胞数や培養液の組成等の調節により解決が見込まれるため、それらの検討を急ぐ。ウイルス感染方法についてはMOIの最適化や感染補助剤の併用により効率を最大限高める。一方で、γセクレターゼの阻害剤を用いた系と、恒常的にPS2がノックアウトされた細胞の培養は安定しているため、それらモデルの解析は予定通り進める。加えて、コスト面、培養日数面、細胞収率面でアドバンテージがある他のヒト神経系細胞である神経芽細胞腫(SH-SY5Y)を用いた薬剤モデルでの検討も平行して進める。また、今回見出されたNPC1の減少のヒト神経細胞コレステロール代謝への影響を検討しつつ、その結果として、アルツハイマー病の病因タンパク質であるアミロイドβプロテイン(Aβ)やタウタンパク質の代謝がどのように変化するのかについても解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に必須な物品は準備済みであり、また、次年度に必要な物品費が予定より多くなったため、次年度に繰り越すこととした。
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