研究課題/領域番号 |
22K07367
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
中村 友也 富山大学, 学術研究部医学系, 助教 (70733343)
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研究分担者 |
一條 裕之 富山大学, 学術研究部医学系, 教授 (40272190)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 外側手綱核 / Parvalbumin / パルブアルブミン陽性神経細胞 / グルタミン酸作動性神経細胞 / GABA作動性神経細胞 |
研究実績の概要 |
申請者はこれまでに,外側手綱核(Lateral habenula: LHb)は,幼少期にストレス感受性が高く,この時期にストレスを受けたマウスでは,成長後,LHbにおいてParvalbumin(PV)陽性神経細胞数が少なく,ストレス刺激後に活動した神経細胞数が多く,不安・うつ様行動を呈することを明らかにした.LHbは経験に依存して成熟し,その成熟障害が不安・うつ様行動発症に関わることが示唆される.本研究では,mRNA in-situ hybridization chain reaction (in-situ HCR)と免疫染色により,LHbのPV陽性神経細胞の作動性(グルタミン・GABA・セロトニン・ドパミン)を同定する.LHb のPV 陽性神経細胞は76.08 ± 1.20%と高い割合でグルタミン酸作動性神経細胞マーカーのvglut2 を発現していた。また, GABA作動性神経細胞マーカーの,gad2の発現は2.93 ± 0.57%であり,発現割合が他の領域と比較して有意に低かった。帯状皮質では,71.57 ± 3.59%でグルタミン酸作動性神経細胞マーカーのvglut1を,27.43 ± 1.35%でGABA作動性神経細胞マーカーgad1を発現していた.海馬では,99.24 ± 0.47%でgad1を,16.64 ± 0.47%でvglut1を発現していた.扁桃体では,93.76 ± 0.88%でgad1を,38.61 ± 0.94%がvglut1を発現していた.これらの結果から,LHbのPV陽性神経細胞は多くが興奮性のグルタミン作動性神経細胞であることがわかった. PV陽性神経細胞は,脳部位によって興奮と抑制の役割が異なっていると考えられる.今まで,PV陽生神経細胞はGABA作動性の抑制性神経細胞であるという定説があったが,それを覆す結果が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①LHbのPV陽性神経細胞の神経伝達物質作動性の解明および他脳部位との比較解析:グルタミン作動性神経細胞マーカーのvglut1,2,3, GABA作動性神経細胞マーカーのgad1,2とvgat,gat,グリシン作動性神経細胞マーカーのvgatを外側手綱核,海馬,扁桃体,帯状皮質で各5例ずつ解析が終了している. ②LHbのZif268/Egr1陽性細胞神経伝達物質作動性の解明:LHbのZif268/Egr1陽性細胞は50%がvglut2陽性細胞であった.PV陽性神経細胞にはZif268/Egr1の発現はみられなかった. ③LHbのPV陽性神経細胞の活動が,LHbおよびモノアミン系神経細胞の活動性に及ぼす影響;PV陽性神経細胞の光遺伝学的操作:PV-creマウスとR26-H2B-EGFP miceをかけ合わせた.この動物では,PV-creによりloxp配列が外れると,その細胞では,生涯にわたってヒストンにEGFPが発現する.外側手綱核では,PV-EGFP陽性細胞数がPV-protein陽性細胞数の10.94倍であり,EGFPの発現はPV-proteinの発現と同等ではなかった.PV-proteinを発現したことのある細胞の中には,成長後にPV-proteinを発現しないものがあることが判明した.PV-creマウスに光受容体を挿入し,操作するという手技では,PV-protein陽性細胞だけでなく,PV-EGFP陽性PV-protein陰性細胞も操作してしまうため,不適切であるということが判明した. LHbのPV陽性神経細胞の神経細胞作動性マーカーがわかりつつあることと,PVの経時的な発現の変化を捉えられたという点で本研究は概ね順調である.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,LHbのPV陽性神経細胞のセロトニン作動性神経細胞マーカーのトリプトファンヒドロキシラーゼ,ドパミン作動性神経細胞マーカーのチロシンヒドロキシラーゼ,コリン作動性神経細胞マーカーのコリンアセチルトランスフェラーゼを免疫染色とin-situ HCRで検討する.これら各マーカーにおける各脳部位の違いを検討する. HCRはスプリットプローブというタイプのプローブで、標識箇所50塩基に25塩基ずつプローブを設計し、二つのプローブが4塩基以内の近さであるときにだけ,反応が起こる。このように非特異的反応は抑制されている.ただし,まだ多く知られていない方法であるので,in-situ HCRのコントロール実験を行う.in-situ HCRでは,ターゲットmRNAに対して,20箇所以上に標識を行っている.それらを10箇所程度ずつにわけ,2種類の蛍光タンパクで識別を行う.それぞれのプローブ群が同じターゲットを標識しているのかを確認する.この実験によって,非特異反応の有無を確認できる.ネガティブコントロールは,wild-typeマウスに対して,wild-typeマウスが持っていないEGFPのmRNA配列に対するプローブを用いる.
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