研究課題/領域番号 |
22K07385
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
堀 啓 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 代謝研究部, 室長 (70568790)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | AUTS2 / 自閉症 / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
自閉症感受性因子<i>AUTS2</i>は主に神経細胞の核内で転写活性化因子として働き、また、この遺伝子の異常が自閉症や知的障害、統合失調症など様々な精神疾患を引き起こす可能性についても示唆されるが、精神疾患発症の分子機序は未だよく分かっていない。過去に申請者は、AUTS2の異常が過剰な興奮性シナプス形成を誘発し、神経回路内の興奮/抑制バランスの破綻を引き起こすことを明らかにしてきた。しかしながら、疾患発症に関わるAUTS2の標的遺伝子はよく分かっておらず、その転写制御機構についても明らかにされていない。これまでに申請者は、RNA-seq解析から、AUTS2がターゲットとする下流候補遺伝子を多数同定した。さらに、これらの候補遺伝子には、実際にシナプス形成やシナプス活動制御に関わる分子が含まれることも明らかにした。また、各種生化学解析から、AUTS2がヒストン脱アセチル化酵素HDACと結合することを確認し、転写抑制にも働く可能性を見出した。 AUTS2とHDACが生体内で相互作用して転写制御を行っているかどうかを検討するため、ChIP-seq解析によるこれら二者のゲノム結合領域の解析を行ったが、有意な共局在を確認することはできなかった。しかしながら、各種ヒストン修飾抗体を用いたChIPs-seq解析を<i>Auts2</i>変異マウスおよびコントロールマウスに対して行ったところ、転写抑制状態を示すヒストンH3リジン27トリメチル化が変異マウスで有意に低下していることから、AUTS2はHDACとは別の抑制因子と相互作用して転写抑制を行なっている可能性が示唆された。今後は、プロテオミクス解析による新規のAUTS2結合分子を同定し、AUTS2による転写抑制制御のよる分子メカニズムの詳細を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度に予定していたRNA-seq解析によるAUTS2ターゲット遺伝子の同定を遂行した。また、解析に用いるためのPAタグ付加Auts2ノックインマウス(PA-Auts2-KIマウス)の作製もすでに完了している。さらに本マウス脳からPA抗体を用いたin vivo 免疫沈降を行い、生体内条件下でAUTS2と相互作用するタンパクサンプルの回収に成功している。今後は本サンプルを用いて質量分析を行い、分子の同定を試みる。 また、HDACとのin vitro条件下での結合は確認できたものの、ChIP-seq解析によるAUTS2とHDACとのゲノム結合領域については、残念ながら有意な共局在を確認できなかったが、ヒストン修飾抗体を用いた解析から、AUTS2がHDACとは異なる分子と相互作用し、ヒストン修飾を介した遺伝子発現抑制を行なっている可能性を新たに見出している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに他の研究グループが主張していたAUTS2-PRC1複合体による転写活性化される遺伝子群と、逆にAUTS2によって発現が抑制される遺伝子群が、どのように相互に関連しつつ細胞内の転写を調節しているのかを明らかにする。これまでに報告のあるAUTS2-PRC1複合体のChIP-seqデータセットと、本研究で得られているデータセットについて比較解析し、両者との相違点について各種バイオインフォマティクス解析によって明らかにする。 また、PA-Auts2-KIマウス脳からPA抗体を用いた免疫沈降によって得られているタンパクサンプルについて質量分析を行い、AUTS2結合分子の網羅的解析を進める予定である。この解析結果から得られたデータから、AUTS2と相互作用して転写抑制に関わる分子を抽出する。各種生化学的解析により、AUT2とこれら結合因子が実際に生体内で結合しているかどうかを確認する。また、結合因子およびAUTS2に対する抗体を用いたChIP-seq解析を行うことによって、ゲノム上での共局在が見られるかどうかを検討する。 上述の解析により同定されたAUTS2結合分子について、shRNAを用いたノックダウン実験を行い、AUTS2変異マウスで見られる表現型(興奮性シナプスの過剰形成など)を示すかどうかを初代培養神経細胞やAuts2変異マウス脳を用いて確認する予定である。
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