自閉症関連因子AUTS2は主に神経細胞の核内で転写活性化因子として働き、また、この遺伝子に変異が生じることで自閉症や知的障害など、様々な精神疾患を引き起こす可能性があることも示唆されてきたが、精疾患発症の分子機序は未だよく分かっていない。過去に申請者は、AUTS2の異常が過剰な興奮性シナプス形成を誘発し、神経回路内の興奮・抑制バランスの破綻を引き起こすことを明らかにした。しかしながら、疾患発症に関わるAUTS2の標的遺伝子はまだ分かっておらず、その転写制御機構についても明らかにされていない。これまでに申請者は、RNA-seq解析から、AUTS2がターゲットとする下流候補遺伝子を多数同定した。さらに、これらの候補遺伝子には、実際にシナプス形成やシナプス活動制御に関わる分子が含まれることも明らかにしてきた。各種生化学解析から、 AUTS2がヒストン脱アセチル化酵素HDACと結合することを確認し、転写抑制にも働く可能性も見出した。AUTS2とHDACが生体内で相互作用し、転写制御を行っているかどうかを検討するため、ChIP-seq解析によるこれら二者のゲノム結合領域の解析を行ったが、 有意な共局在を確認することはできなかった。しかしながら、各種ヒストン修飾抗体を用いたChIPs-seq解析をAuts2変異マウスおよびコントロールマウ スに対して行ったところ、転写抑制状態を示すヒストンH3リジン27トリメチル化が変異マウスで有意に低下していることから、AUTS2はHDACとは別の抑制因子と相互作用して転写抑制を行なっている可能性を見出した。
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