研究実績の概要 |
偽遺伝子は「本来の遺伝子に類似した塩基配列で、かつては遺伝子産物をコードしていたと思われるが、塩基が欠損または挿入・重複しているために、遺伝情報が発現しておらず、現在は遺伝子としての機能を消失しているもの」と定義されている。しかし、近年偽遺伝子が新規の生物学的役割を獲得しており、発がんに多面的に関与しているという報告がある。PTENP1は本当に「偽」遺伝子なのか?白血病細胞の増殖におけるPTENP1の機能が明らかになれば、これまであまり注目されていなかった偽遺伝子に対する研究が推進され、新たな分子標的治療への応用や分子生物学的検査法の開発が期待される。 令和4年度は研究実施計画に基づき、PTENP1のsiRNAをエレクトロポレーション装置を用いて白血病細胞内に導入することによってPTENP1の遺伝子発現をノックダウンする研究を実施した。その過程で細胞増殖、細胞周期、シグナル伝達系に関連する蛋白および遺伝子発現への関与について解析した。 その結果、一部の白血病細胞においてPTENP1が機能遺伝子としての役割を獲得して細胞増殖および細胞周期を調節している可能性があることが明らかになった。また、PTENP1は一部の白血病細胞の細胞周期を制御している可能性が示唆された。さらに、 PTENP1のsiRNA導入後, Notch, mTOR, Hedgehog, Wntシグナル関連蛋白に変化がみられたことから, PTENP1が幹細胞の分化, 増殖に関与しているシグナル伝達系と関係があることが示唆された。これらの結果はこれまでの偽遺伝子に対する定説とは全く異なる新たな知見になり得る結果であり、将来のゲノム医療およびゲノム関連検査の発展に寄与し得る研究結果が得られた。
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