研究課題/領域番号 |
22K07488
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
北中 明 川崎医科大学, 医学部, 教授 (70343308)
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研究分担者 |
通山 薫 川崎医科大学, 医学部, 教授 (80227561)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | CD38 / daratumumab |
研究実績の概要 |
われわれはマウス抗CD38抗体が造血器腫瘍細胞に増殖抑制・アポトーシス誘導効果を示すことを発見し、CD38を標的分子とした抗体療法、免疫療法の検討を行ってきた。これまでの解析からは、マウス抗CD38抗体による抗腫瘍効果には、抗体の結合後に惹起される細胞内チロシンキナーゼの活性化が重要であり、シグナル伝達の起点としてFc受容体の関与が示されている。これを受け、われわれは標的細胞に結合した抗CD38抗体のFc部分が、同じく標的細胞上に発現するFc受容体と結合することで抗腫瘍シグナルを伝達するメカニズムを提唱している。 マウス抗CD38抗体によるチロシンキナーゼ(PTK)活性化の観察が可能なBa/F3-CD38細胞にdaratumumabを作用させたところ、マウス抗CD38抗体(T16)と全く同様の細胞内チロシンリン酸化が惹起された。また、完全長のdaratumumabがPTKを活性化するのに対し、daratumumabのF(ab')2断片は、PTKの活性化を引き起こさなかった。 DaratumumabのF(ab')2断片を反応させたBa/F3-CD38細胞に、二次抗体として完全長のウサギ抗ヒトIgGまたはウサギ抗ヒトIgG F(ab')2 を作用させたところ、daratumumab F(ab')2を完全長のウサギ抗ヒトIgGで架橋した場合にのみ、チロシンリン酸化が観察された。このことから、daratumumabを介したPTKの活性化にはdaratumumabのFc部分が必要であることが示された。 Daudi細胞に及ぼすdaratumumabの影響を観察したところ、完全長のdaratumumabは、daratumumab F(ab')2に対して有意に高い増殖抑制を示した。これは、daratumumabのFc領域が、細胞増殖抑制効果の発揮にも重要であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
われわれは、ヒトCD38を恒常的に発現したマウス細胞株Ba/F3(Ba/F3-CD38細胞)が、マウス抗CD38抗体によるチロシンキナーゼ(PTK)活性化の観察に最適の細胞であることを明らかとしている。Daratumumabによる刺激は、Ba/F3-CD38細胞にマウス抗CD38抗体と同様のチロシンリン酸化を惹起させ、当該細胞がdaratumumabの作用機序解析にも有用であることが明らかとなった。完全長のdaratumumabによる刺激がPTKを活性化するのに対し、daratumumabのF(ab')2断片は、PTKの活性化を引き起こさなかった。低温下でBa/F3-CD38細胞の表面にdaratumumab F(ab')2を結合させ、その後、二次抗体として完全長のウサギ抗ヒトIgGまたはウサギ抗ヒトIgG F(ab')2 を37℃で反応させることによって、CD38分子の単純な架橋と、CD38、daratumumab、Fc受容体間の架橋を比較したところ、daratumumab F(ab')2を完全長のウサギ抗ヒトIgGで架橋した場合にのみ、チロシンリン酸化が観察された。このことは、daratumumabを介したPTKの活性化にdaratumumabのFc部分が必要であることを示しており、われわれの提唱するモデルの妥当性を裏付ける根拠の一つと言える。 一部のヒトB細胞株の増殖が、daratumumabによって抑制されることが報告されているが、バーキットリンパ腫由来ヒト細胞株Daudiの増殖を、完全長のdaratumumabは、daratumumab F(ab')2よりも有意に強く抑制した。これらの結果より、daratumumabの作用機序について、チロシンリン酸化を指標とした生化学的な解析モデルと、細胞生物学的アプローチの可能なモデルを確立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討によって、CD38発現細胞に対するdaratumumabの増殖抑制作用におけるFc部分の役割を解析するためのモデル細胞株選定は順調に進行している。マウス抗CD38抗体によるCD38分子の刺激が、B細胞受容体(BCR)シグナルに重要なCD19やLyn、PI3-キナーゼをチロシンリン酸化、活性化することから、これらB細胞のシグナル分子がCD38分子を起点としたシグナル伝達に関与することが想定されたが、われわれが初期に行なった古典的な解析手法では、CD19などのBCRに関与する細胞表面分子とCD38の直接的な会合を証明することができず、その活性化機序を明らかにできなかった。 その後、他の研究者によって、CD38はIgMクラスBCR(IgM-BCR)の成分である膜結合IgM、Igα、Igβ、CD81と共局在することが報告された(Deaglio他、2003年)。さらに、抗体や架橋剤、あるいはCD31を介した刺激で、CD38がCD19/CD81複合体とともにキャップ領域に再局在化することが見出されている(Deaglio他、2007)。最近になって、CD38が安静時B細胞においてCD19と近接し、BCR刺激の後にはIgM-BCRと近接することが見出された(Camponeschi他、2022)。同時に、daratumumabに代表される抗CD38抗体の結合や、CRISPR/Cas9システムによるCD38のサイレンシングがBCRシグナルを阻害することも示され、CD38がIgM-BCR を介したB細胞の活性化に不可欠な分子であることが示された。今後の解析には、これらの新たな知見を反映する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していたBa/F3細胞の培養に用いるサイトカンの購入費が低減できたため、また、コロナウイルス感染の蔓延を原因とした出張の抑制(web参加)によって2022年度の旅費が減少したため、次年度使用が発生した。次年度は、国内外の学会参加費も支出する予定である。
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