研究課題
2022年度は、実験的自己免疫性神経炎(EAN)モデルにおける不死化ヒト脱落乳歯歯髄幹細胞の培養上清(SHED-CM)の治療効果について検討を行った。① EANモデルマウスでの治療効果:末梢神経ミエリン蛋白0(P0)180-189ペプチドをCFAと共に1習慣開けて2度免疫し、百日咳毒素を静注し、神経炎を発症させ、臨床スコアーがピークの15日目から2日に1回不死化SHED-CMおよびそのコントロール培地を200 μlずつ複数回腹腔内投与したところ、SHED-CM投与により有意に臨床スコアーの軽減が認められた。さらに、トレッドミルを用いて運動機能を測定すると、運動機能の改善が見られる傾向にあった。1ヶ月後に、坐骨神経のウエスタンブロット解析により、ミエリン塩基性蛋白質(MBP)の発現上昇や、電子顕微鏡解析により神経軸索のミエリンの厚みやその数の増加、さらに、坐骨神経でシュワン細胞の脱分化に重要な転写因子c-Jun発現の低下と逆にシュワン細胞の分化に重要な転写因子Egr2発現の増強が見られた。② SHED-CMのサイトカイン網羅解析:SHED-CM中のサイトカイン量を抗体アレイを用いて網羅的に定量すると、上位にHepatocyte growth factor(HGF)が検出された。そこで、EAN免疫開始から23日後の坐骨神経のウエスタンブロット解析により、SHED-CM投与によりHGFの受容体であるc-METのリン酸化の増強が見られた。次に、HGFの抗体を用いてSHED-CMよりHGFを免疫除去したSHEDとそのコントロール抗体で同様に処理したSHED-CMをEANマウスに投与すると、HGFの免疫除去によりSHED-CMのEAN発症抑制効果がキャンセルされる傾向にはあった。そこで、今度はHGFのsiRNAおよびコントロールのsiRNAをSHED細胞に遺伝子導入し、その培養上清を回収して、EANマウスに投与したが、EAN発症の抑制効果のキャンセルは弱かった。現在、他の分子の関与も含めて検討中である。
2: おおむね順調に進展している
不死化ヒト脱落乳歯歯髄幹細胞の培養上清(SHED-CM)による実験的自己免疫性神経炎(EAN)の抑制効果が明らかになってきたので、ほぼ計画の予定通り進んでいる。
2023年度:マウスシュワン細胞株IMS32を用いた作用機序の検討① SHED-CMの蛋白質分子の関与:IMS32細胞に、SHED-CMとそれを超遠心により分離した上清分画とエクソソームを共存させて培養し、増殖増強効果を調べる。次に、上述の検討で得られた分子に対する中和抗体を共存させて、増殖誘導がキャンセルされるか検討する。効果があればEAN発症マウスに投与しその関与を明らかにする。② SHED-CMのエクソソームの関与:エクソソームの関与も見られれば、次に、miRNA Arrayを用いて網羅的に発現解析を行い、神経細胞の損傷修復・再生に関わるmicroRNAの候補を複数選択し、それらのmicroRNAを作製し、IMS32細胞に加えて増殖に影響を与えれば、その標的分子の蛋白質レベルでの発現低下をウエスタンブロットにより解析し、作用機序を明らかにする。2024年度:当初は、CIPNモデルマウスにおけるSHED-CMの治療効果について検討する予定であったが、最近、予備的実験より、マウス脾臓由来ナイーブCD4+T細胞を固相化抗CD3抗体+抗CD28抗体で刺激する際、SHED-CMを加えると、細胞増殖を抑制する結果を得た。すなわち、SHED-CMによるEANの治療効果に、シュワン細胞への直接の増殖・分化や再生誘導のみにならず、免疫抑制効果も関与している可能性が示唆された。そこで、まず、同様にCD4+T細胞を刺激し、細胞増殖への効果のみならず、ELISAやFACS解析によりサイトカイン産生や制御性T(Treg)細胞およびIL-10産生細胞の分化誘導、さらに、ウエスタンブロットやRT-qPCTにより抑制性の転写因子SOCS1やSOCS3やその誘導に重要と報告されている転写因子Egr2の発現誘導などを調べる。次に、EANマウスの坐骨神経でのこららの分子の発現も同様に調べる。
使用金額の端数を合わせることができなかったため、次年度使用が生じた。残金は、次年度の消耗品代に加えて使用する計画である。
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