研究課題
2023年度はマウスシュワン細胞株IMS32を用いたSHED-CMの作用機序の検討を行った。①SHED-CMの蛋白質分子の関与:IMS32細胞に、無血清下SHED-CMまたはコントロール培地を加えると、SHED-CMの容量依存的に細胞増殖が増強された。そこで、SHED-CM中のどの分子が関与しているかを調べるために、可能性の高い10種類以上の組換えサイトカインを選びIMS32細胞に加えると、HGFとbFGF、NRG1で細胞増殖を増強し、さらに、SHED-CMによる細胞増殖の増強が、それぞれの抗体でブロックされることがわかった。さらに、SHED-CMでIMS32細胞を刺激すると、c-METやErbB2-4、その下流のERKやAKTのリン酸化を誘導し、SHED-CMおよび上記のサイトカインは、いずれもシュワン細胞の分化に重要な転写因子EGR2の発現も増強した。②SHED-CMのエクソソームの関与:SHED-CM中のエクソソームからRNAを抽出し、GeneChip miRNA Arrayを用いて網羅的に発現解析を行ったところ、アレイに用いた6599種類のmicroRNAの内、845個のmicroRNAが検出された。その中には、シュワン細胞の機能に関与していそうなmicroRNAも含まれていた。そこで、SHED-CMを超遠心機を用いて分離後、上清を蛋白質、沈渣をエクソソーム分画に分けて、まず、NanoSightにより粒子サイズが平均100 nmであることや、エクソソームのマーカー分子CD63とCD81の抗体を用いたウエスタンブロット解析より、両者が綺麗に分離されていることがわかった。そこで、分離前のSHED-CMとコントロール培地、両分画をIMS32細胞に加え細胞増殖を調べると、エクソソーム分画では増殖への影響が殆どなく、蛋白質分画で分離前と同レベルに、細胞増殖を増強した。
2: おおむね順調に進展している
不死化したヒト脱落乳歯歯髄幹細胞の培養上清(SHED-CM)による実験的自己免疫性神経炎(EAN)の抑制効果とその作用機序が明らかになってきているので、ほぼ計画の予定通り進んでいる。
2024年度は、当初は、SHED-CMによるT細胞活性化の抑制効果について調べる予定であったが、SHED-CMのシュワン細胞や神経細胞への効果の方が大きいと考え、さらに詳細に調べ、そこまでで論文に纏めることにし、T細胞活性化の抑制効果については先送りにすることにした。①SHED-CMによるシュワン細胞のミエリン化増強効果:既報に従い、マウス坐骨神経よりシュワン細胞を分離後、初代培養を行う。この初代培養シュワン細胞、または、ヒトテロメラーゼ遺伝子を導入し株化したhTERT-シュワン細胞株(ATCCより購入)を培養し、そこへSHED-CMおよびコントロール培地を加え、経時的に、細胞を固定し免疫蛍光染色と、細胞溶解液を調製しウエスタンブロット解析により、成熟シュワン細胞への分化マーカーであるミエリン塩基性蛋白質(MBP)やMyelin protein zero(P0)、EGR2の発現増強を調べる。次に、EGR2発現誘導の重要性を明らかにするため、EGR2特異的siRNAおよびコントロールsiRNAを遺伝子導入し、EGR2発現の低下を確認後、成熟シュワン細胞への分化への影響を調べる。②SHED-CMによる神経細胞の神経突起伸張増強効果:神経成長因子(NGF)の添加により神経突起伸張能を有するラット褐色細胞腫PC12細胞に、SHED-CM、または、コントロール培地、NGFを加え、48時間後、細胞形態を写真に撮り、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて神経突起の長さを定量し、神経突起伸張能への効果を検討する。SHED-CMに神経突起伸張効果が見られれば、それに関与していそうなNGFやHGF、bFGF、NRG1などのサイトカインに対する抗体を加え、その神経突起伸張能の増強効果がブロックできるか検討し、その作用機序を明らかにする。
使用金額の端数を合わせることができなかったため、次年度使用が生じた。残金は、次年度の消耗品代に加えて使用する計画である。
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