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2022 年度 実施状況報告書

HAMにおける免疫系と神経系の細胞間ダイナミクスによる神経障害機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 22K07507
研究機関聖マリアンナ医科大学

研究代表者

新谷 奈津美  聖マリアンナ医科大学, 医学研究科, 助教 (80440353)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードHTLV-1関連脊髄症(HAM) / HTLV-1 / 神経障害 / 神経炎症
研究実績の概要

ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)関連脊髄症(HAM)は、HTLV-1感染細胞に起因した過剰な免疫応答による脊髄の慢性炎症によって引き起こされる神経障害を特徴とする難治性疾患である。よって、その全容の解明がHAM病態の理解及びその制御には必須である。
これまでに我々は、HTLV-1感染細胞が脊髄病変部において慢性炎症を形成する機構を証明してきたが、未だ、HAMの慢性炎症によって神経障害が誘導される機構は不明である。そこで本研究では、HAMの慢性炎症において中心的役割を果たすHAM患者免疫細胞(以下、HAM免疫細胞)と神経細胞、アストロサイトおよびミクログリアといった神経系細胞間の相互作用によるダイナミクス変化を明らかにすることからHAMの神経障害の成り立ちを理解し、HAM神経障害を標的とする有効的な治療法開発の礎となる病態基盤を明らかにすることを目的とし、令和4年度は、HAM免疫細胞による神経障害作用について解析を試みた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は、HAM免疫細胞による神経障害作用の解析を実施し、以下の結果を得た。
(1)HAM患者PBMCによる神経障害作用の証明:健常者(HD)またはHAM患者PBMCと神経細胞株NB-1を共培養し、培養上清中の神経細胞の損傷マーカーであるニューロフィラメント(NF)濃度の上昇を確認し、HAM-PBMCによる神経細胞障害活性を証明した。
(2)HAM患者PBMC培養上清による神経細胞障害の証明:HDまたはHAMのPBMCの培養上清をNB-1の培養系に添加した際に放出されるNFを比較解析し、HAM患者PBMC培養上清による神経障害活性を証明した。また、HAM-PBMCは、培養に伴い炎症性サイトカイン(IFNγ、TNFα)を過剰産生する特徴を有するが、HAM患者PBMC培養上清による神経障害作用が抗IFNγ抗体または抗TNFα抗体により阻害されることを示した。
(3)HAM患者PBMC培養上清による神経細胞変化:HAM患者PBMC培養上清によるNB-1細胞障害時に発現変動する遺伝子についてnCounter Analysis system(NanoString社)を用いて神経炎症(免疫、炎症、神経生物学、神経病理学など)に関連した770遺伝子について網羅的に解析し、HAM免疫細胞により誘導される神経障害での細胞内応答の特徴を明らかにした。
以上の結果から、HAM免疫細胞または培養上清は神経細胞を障害する作用を有することを示し、HAM病態形成に関与し得ることが予想された。また、その活性にはHAM免疫細胞に起因する炎症性サイトカインが作用していることを明らかにした。従って、HAMにおける過剰な免疫応答の抑制が神経障害の制御に有効と予想された。

今後の研究の推進方策

今後は、神経障害におけるHAM免疫細胞と神経細胞、アストロサイトおよびミクログリアといった神経系細胞間の相互作用によるダイナミクス変化を明らかにするため以下の解析を予定する。
(1)神経障害における HAM免疫細胞とアストロサイト/ミクログリア間の相互作用の解析:アストロサイトとミクログリアは神経に対する作用の違いから、神経障害型細胞(A1アストロサイト、M1ミクログリア)または神経保護型細胞(A2アストロサイト、M2ミクログリア)に機能変化する。よって、HAM免疫細胞が神経障害型細胞への変化を誘導し、神経細胞障害に対して協調的に作用するかについて検討する。
(2)HAM脊髄病変部における細胞間相互作用の解析:病理組織切片上における複数種類(40種以上)の発現因子を検出することで組織内の各種細胞タイプについてシングルセルレベルで詳細分離する微小環境マルチプレックス空間解析システムを用いてHAM患者病変部におけるHAM免疫細胞と神経組織内細胞との空間的相関関係を統合的に理解する。
(3)神経細胞障害を標的としたHAM治療薬の開発:本研究で確立される「HAM-PBMC + NB-1 + U251 + HMC3」の解析系を用いることによりHAMによる神経障害を標的とする治療薬の探索・評価を初めて可能となる。我々は、これまでにHAMにおけるHTLV-1感染細胞において特異的に発現変化する遺伝子の網羅的探索解析を実施し、その解析結果に基づきHAMの感染細胞において特徴的に亢進するシグナル伝達系を同定している。そのシグナル伝達系に対する阻害剤のHAM治療薬としての有効性を予想し、本解析系を用いて神経細胞障害を指標とした治療薬としての有効性を評価・証明する。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2022 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Health-related quality of life evaluation using the Short Form-36 in patients with human T-cell leukemia virus type 1-associated myelopathy.2022

    • 著者名/発表者名
      Kimura M, Yamauchi J, Sato T, Yagishita N, Araya N, Aratani S, Tanabe K, Horibe E, Watanabe T, Coler-Reilly ALG, Nagasaka M, Akasu Y, Kaburagi K, Kikuchi T, Shibata S, Matsumoto H, Koseki A, Inoue S, Takata A, Yamano Y.
    • 雑誌名

      Front Med

      巻: 9 ページ: 879379

    • DOI

      10.3389/fmed.2022.879379.

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] RAISING is a high-performance method for identifying random transgene integration sites.2022

    • 著者名/発表者名
      Wada Y, Sato T, Hasegawa H, Matsudaira T, Nao N, Coler-Reilly ALG, Tasaka T, Yamauchi S, Okagawa T, Momose H, Tanio M, Kuramitsu M, Sasaki D, Matsumoto N, Yagishita N, Yamauchi J, Araya N, et al.
    • 雑誌名

      Commun Biol

      巻: 5(1) ページ: 535

    • DOI

      10.1038/s42003-022-03467-w.

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Potential Role of HTLV-1 Tax-Specific Cytotoxic T Lymphocytes expressing a Unique T-cell Receptor to Promote Inflammation of the Central Nervous System in Myelopathy Associated with HTLV-1.2022

    • 著者名/発表者名
      Tanaka Y, Sato T, Yagishita N, Yamauchi J, Araya N, Aratani S, Takahashi K, Kunitomo Y, Nagasaka M, Kanda Y, Uchimaru K, Morio T, Yamano Y.
    • 雑誌名

      Front Immuno

      巻: 13 ページ: 993025

    • DOI

      10.3389/fimmu.2022.993025.

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] A randomized controlled trial on corticosteroid therapy for HTLV-1-associated myelopathy/tropical spastic paraparesis in Japan (HAMLET-P trial).2022

    • 著者名/発表者名
      Yamauchi J, Sato T, Yagishita N, Araya N, Nakagawa M, Matsuura E, Tsuboi Y, Tamaki K, Sakima H, Ishihara S, Araujo A, Jacobson S, Grassi MFR, Galvao-Castro B, Bland M, Taylor GP, Martin F, Yamano Y.
    • 学会等名
      20th International Conference on Human Retrovirology: HTLV and Related Viruses(HTLV22)
    • 国際学会
  • [学会発表] Evaluation of quantification method of HTLV-1 proviral load in white blood cells using whole blood.2022

    • 著者名/発表者名
      Sato T, Yagishita N, Araya N, Yamauchi J, Takahashi K, Kunitomo Y, Hasegawa Y, Higashikuse Y, Miyachi K, Yamano Y.
    • 学会等名
      20th International Conference on Human Retrovirology: HTLV and Related Viruses(HTLV22), 8 - 11 May 2022, Melbourne, Australia.
    • 国際学会
  • [学会発表] HTLV-1関連脊髄症(HAM)の病態形成機構.2022

    • 著者名/発表者名
      新谷奈津美, 荒谷聡子, 八木下尚子, 山内淳司, 佐藤知雄, 山野嘉久.
    • 学会等名
      第63回日本神経学会学術大会
  • [学会発表] HAMの排尿障害における臨床症状評価と治療効果判定の標準化スケールの確立.2022

    • 著者名/発表者名
      鷹尾直誠, 佐藤知雄, 山内淳司, 八木下尚子, 新谷奈津美, 荒谷聡子, 山野嘉久.
    • 学会等名
      第8回日本HTLV-1学会学術集会
  • [学会発表] HTLV-1 関連脊髄症(HAM)の神経障害機構の解析.2022

    • 著者名/発表者名
      新谷奈津美, 荒谷聡子, 八木下尚子, 山内淳司, 鷹尾直誠, 佐藤知雄, 山野嘉久.
    • 学会等名
      第8回日本HTLV-1学会学術集会
  • [備考] 聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター

    • URL

      https://nanchiken.jp/

URL: 

公開日: 2023-12-25  

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