研究課題/領域番号 |
22K07513
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
田中 ゆきえ 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 准教授 (10814197)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | HTLV-1 Tax |
研究実績の概要 |
感染することでキャリア期を経て発症する。HTLV-1に対する宿主免疫で最も重要なのがHTLV-1の転写活性化因子Taxに特異的な細胞傷害性T細胞 (Tax-CTL)である。我々はこれまでに日本人に最も多いHLA-24陽性のHTLV-1感染者体内に存在するTax-CTL集団において、TCRβ鎖CDR3に特徴的なアミノ酸配列(P-D-R)を有するTax-CTL (以下、PDR-Tax-CTL) が保存されており、これらの細胞が極めて強力な抗HTLV-1活性を持つことを明らかにしている。 HAMの病態は、脊髄中に浸潤したHTLV-1感染細胞に対するTax-CTLの過剰な免疫応答が慢性炎症病巣を形成・維持するためと考えられている。本研究では、HLA-A24陽性のHAM患者における炎症惹起にPDR-Tax-CTLが関与している可能性を強く疑い、HAM患者の末梢血および髄液中のT細胞のレパトア解析を行った。その結果、13例の末梢血中のTax-CTLのレパトア解析では非常に限られた多様性を示す症例が多く、中にはPDR-Tax-CTLが占める割合が非常に高い症例も複数存在した。4例の髄液中のT細胞のレパトア解析では、髄炎症マーカーである髄液ネオプテリン値が高い患者ほど、PDR型あるいは類似するTCR遺伝子型を発現するTax-CTLが多い傾向が示された。さらに、末梢血中のTax-CTLに対するシングルセルRNA-seq解析では、HAM患者のPDR-Tax-CTLは他のTCR遺伝子を発現するTax-CTLよりも、KLRB-1(CD161)を優位に発現していた。近年、KLRB-1(CD161)はNK細胞だけでなく、細胞傷害性T細胞の機能亢進にも関わることが報告されている。これに基づき、HAM患者の疾患活動性および予後を予測可能なTax-CTLが発現する免疫細胞性バイオマーカーを探る検討を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
炎症レベルを鑑み選定したHAM患者の末梢血と髄液中TCRレパトアのペア解析の結果(Front Immunol. 2022 Aug 23;13:993025)をもとに、本年度はさらにTax-CTLの表面抗原の発現解析と脊髄への遊走性について検討する予定であったが、十分な実験時間の確保が厳しく、結果的にCTLクローン誘導が出来なかった。
|
今後の研究の推進方策 |
HAM患者由来のTax-CTLクローンを樹立する。PDR-Tax-CTL遺伝子発現プロファイリング(シングルセルRNA-seq解析)の結果に基づいて、脊髄への遊走と炎症増悪に関わるTax-CTLの表面抗原の解析を行う。炎症度の高いHAM患者からのTax-CTLクローン樹立に注力し、iPS-CTLの作製も視野に入れながら、HAMの疾患活動性と予後を予測可能な免疫細胞性マーカーとしてのTax-CTLの可能性について精査する。研究は炎症度の高いHAM患者における脊髄炎症局所細胞の空間解析も次のステップで行えるよう努める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
HAM由来Tax-CTLクローンの樹立実験に遅れが生じているため、次年度に研究費を使う必要が生じた。培養実験やTax-CTLの免疫細胞性バイオマーカーの可能性を探るためのFACS, 髄液レパトア解析、NGSシーケンス実験を中心とした実験、学会報告等への予算の使用を計画している。
|