研究課題
これまで申請者らはADモデルマウスに骨髄間葉系幹細胞 (MSCs)を移植することで認知機能の改善や脳内アミロイドβ蓄積、炎症性サイトカインの減少を認めることを示してきた。MSCsは脳内に直達しておらずリモート作用があると考えられた。MSCs由来のシグナルを毛細血管近傍の周皮細胞 (PCs)が受容し、グリア細胞やニューロンなどへの他の細胞形質へ分化転換しうるか検討するため、培養系の構築を目指した。脳内毛細血管周囲に分布するPCsが何らかの刺激を受容し、stemnessを獲得して分化転換することはADモデルにおいて保護的に作用しているのではないかと仮説を立てた。PCsに着目した根拠として、1)解剖学的に毛細血管腔に近く存在し物理的に液性因子などを受容しやすい、2)発生学上、外胚葉と中胚葉の両方の性質を有する、3)BBBの恒常性維持だけでなく病的状態で分化転換する可能性が指摘されている、が挙げられる。その際に自然免疫のシグナル伝達経路TLR4-MyD88を介した分化転換の報告があり、この分子メカニズムに着目して検討すること、また、生体でPCsを同定可能なADモデル動物を作製し、MSCs投与によるPCsの脳内での数、分布、機能など定量的に検討してADの病態生理におけるPCsの役割を解明することを目的とした。下記に示すように、やや進捗が遅れており、今年度のPCsを用いた研究における実績はないが、所属機関において関連した研究に関して共通した知見については学会発表を行っている。
3: やや遅れている
本研究は分化転換する際のPCsの細胞内シグナル分子についても明らかにすることも目的であり、自然免疫作動に関与するTLR4ないしMyD88、NF-κBを介し主にグリア細胞系譜への分化転換の有無を検討する。最終的にADなどの神経変性疾患のPCsの機能制御を介した治療戦略を構築することを目的としている。周皮細胞の細胞株TR-RCT1細胞の培養状況がやや特殊な条件が必要なため、この研究にてデータが取得できるような状況に持ち込むことが困難である。この細胞以外で周皮細胞培養の培養系を確率することも検討している。
引き続き周皮細胞を用いた研究を行うが、細胞株を用いるのが困難な場合、マウスの血管から初代培養として周皮細胞を取り出すことが可能かどうか検討する。培養が可能であればSDラット骨髄由来のMSC上清(MSC-CM)を添加する。Stemness、未分化細胞形質再獲得の証明としてSox2、c-myc、klf4などで確認し、neural crestのマーカーSlug、Sox9などで確認する。MSC-CMを分子量によるultrafiltration filterに通した状態や加熱処理した状態で添加した場合の変化も観察する。また、現在当教室では多発性硬化症ないし視神経脊髄炎の患者から採取した脳脊髄液からエクソソームを主とした細胞外小胞を回収してその内容、特に核酸だけでなく分子について網羅的に解析を行っている。特に再発寛解期だけでなく二次進行型に移行した患者を区別して解析を行うと、そのプロフィールに大きな違いがあることが明らかになってきた。これらの特徴的な分子に炎症に関連するもの以外に血管内皮細胞に主に発現する分子、細胞接着に関連する分子を探索し炎症細胞以外の周皮細胞を含む血管内皮を構成する細胞の発現分子の変化を捉えられる可能性があり、細胞が大量調整が可能となればこれらの発現をコントロールする研究も可能になると考えられる。
前年度まで消耗品の購入が少なく残額が発生した。2024年度内に培養に係る消耗品、抗体の購入費、プロテオーム網羅的解析の費用などに充当する予定である。また2024年度には国内外の複数の学会の参加費に充当する予定である。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (11件)
Internal Medicine
巻: 62 ページ: 2261~2266
10.2169/internalmedicine.0798-22
巻: 62 ページ: 1827~1833
10.2169/internalmedicine.0356-22
Kanzo
巻: 64 ページ: 559~566
10.2957/kanzo.64.559